電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「トルク−回転速度曲線と比例推移」は巻線形誘導電動機の核心を言葉で確認する定番テーマです。本記事では、令和6年度下期 A問題3を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
キーワードは4つ——「電源周波数」「停動トルク」「二次回路」「比例推移」。特に「最大トルクは二次抵抗に無関係(山の高さは不変、位置だけ動く)」が本問の核心です。
令和6年度下期 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
曲線を決めるもの・動かすもの・動かないものを切り分けます。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和6年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和6年度下期 A問題3
巻線形誘導電動機のトルク-回転速度曲線は、電源電圧及び(ア)が一定のとき、発生するトルクと回転速度との関係を表したものである。この曲線は、ある滑りの値でトルクが最大となる特性を示す。このトルクを最大トルク又は(イ)トルクと呼んでいる。この最大トルクは(ウ)回路の抵抗には無関係である。巻線形誘導電動機のトルクは(ウ)回路の抵抗と滑りの比に関係するので、(ウ)回路の抵抗が k 倍になると、前と同じトルクが前の滑りの k 倍の点で起こる。このような現象は(エ)と呼ばれ、始動特性の改善及び速度制御に広く用いられている。
(1) 電源周波数・停動・二次・比例推移 (2) 電源周波数・停動・一次・二次励磁 (3) 負荷・臨界・一次・比例推移 (4) 電源周波数・臨界・二次・二次励磁 (5) 負荷・臨界・二次・比例推移
本問は平成20年度 A問題3(誘導機48)とほぼ同一の再出題です。定義文ごと覚えれば二度おいしい1問です。
出題のポイント:曲線を決めるもの・動かすもの・動かないもの
この問題文は比例推移の定義を、そのまま日本語にしたものです。3つの「何が何を決めるか」を切り分けられれば、読みながら埋まります。
| 何が決めるか | 空欄 | |
| 曲線そのものの形 | 電源電圧と電源周波数(電動機側の特性) | (ア)=電源周波数 |
| 山の高さ(最大トルク) | 電圧とリアクタンス。二次抵抗には無関係 | (イ)=停動 |
| 山の位置(滑り) | 二次抵抗に比例して動く | (ウ)=二次・(エ)=比例推移 |

空欄を確定する
(ア):曲線を描く前提は電源側の条件
トルク−回転速度曲線は「電源電圧と電源周波数が一定」という前提のもとで描かれます。電圧が変われば高さが変わり、周波数が変われば同期速度そのものが動くからです。(ア)=電源周波数。
「負荷」は誤りです。負荷は「曲線上のどの点で運転するか」を決めるだけで、曲線そのものは電動機側の性質です。
(イ):最大トルクの正式名称は「停動トルク」
停動トルク(breakdown torque)——これを超える負荷をかけると電動機が停止してしまう限界値です。(イ)=停動。「臨界トルク」という語は電験では使いません。
(ウ)(エ):二次回路と比例推移
外部抵抗を挿入できるのは二次回路だけ(スリップリングで引き出せるから)。「抵抗が k 倍になると、同じトルクが滑り k 倍の点で起こる」——問題文が比例推移の定義をそのまま書いてくれています。(ウ)=二次、(エ)=比例推移。
「二次励磁」は別の技術です。二次回路に抵抗を入れるのではなく、電力を注入・回収する方式(セルビウス方式・クレーマ方式)で、「抵抗 k 倍」という本文の記述と噛み合いません。



比例推移を計算で使う
この論説問題の知識は、そのまま計算問題に化けます。「同じトルクなら r2/s が同じ」という一点だけで、挿入すべき抵抗が求まります。
例:二次抵抗 r2=0.10 Ω、定格滑り s=0.04 の巻線形誘導電動機で、始動時(s=1)に定格トルクと同じトルクを出したいとします。
定格運転と始動を「同じトルク」で結ぶ。
もとの抵抗の24倍もの抵抗を足すことになる。
一般化すると R=r2(1/s−1)です。定格滑りが小さい機械ほど、大きな外部抵抗が必要になります。
始動時に最大トルクを出したいなら、sm=1 となるように抵抗を選びます。sm=r2/x2 ですから、r2+R=x2 となる R を入れればよい——これ以上大きな始動トルクは原理的に出せません。
★同一問題:平成20年度 A問題3と同じ内容
この問題は平成20年度 A問題3とほぼ同一の再出題です。問題文も4つの空欄の答えも同じ——ところが正解の番号が違います。
| 平成20年度 A問題3 | 令和6年度下期 A問題3(本問) | |
| (ア) | 電源周波数 | 電源周波数(同じ) |
| (イ) | 停動 | 停動(同じ) |
| (ウ)(エ) | 二次・比例推移 | 二次・比例推移(同じ) |
| 正解の番号 | (5) | (1) |
答えの中身は完全に同じなのに、正解の番号が (5) から (1) へ移動しています。16年ぶりの再出題で、選択肢を並べ替えただけ——「答えは(5)」と番号で覚えていた人は、本問で確実に外します。
16年空けても同じ問題が出るということは、比例推移が誘導機の中心的な論点として一貫して重視されているということです。「山の高さは不変、位置だけが抵抗に比例」という一文を、番号ではなく中身で覚えてください。
⏱️ 本番での進め方
① (ア)と(エ)の2か所で決まる:電源周波数で3肢、比例推移でさらに絞れる。
② 電験の用語は「停動トルク」。「臨界トルク」は存在しない。
③ 山の高さは r2 と無関係、位置だけが r2 に比例。
④ 「二次励磁」は抵抗ではなく電力を注入する別方式。
最大トルクの式を自分で出してみる
「最大トルクは二次抵抗に無関係」という本問の核心は、式から2行で導けます。覚えるより出せるようにしたほうが確実です。
ここで X=r2/s と置くと、T ∝ V²X/(X²+x2²) というX だけの関数になります。この形は「分母を X で割る」と山の頂上が見えます。
分母を最小にすれば T が最大。
分母の最小値は 2x2。
r2 に比例——山の位置。
r2 がどこにも残っていない——山の高さ。
「分母の最小値は 2x2 で、そこに r2 は現れない」——これが「最大トルクは二次抵抗に無関係」の正体です。抵抗を変えても、頂上の高さを決める 2x2 は動かないのです。
この導出から、最大トルクを大きくしたければリアクタンスを小さくするしかないことも分かります。x2 は漏れ磁束で決まる量ですから、設計段階で決まってしまい、運転中には手が出せません——だからこそ「動かせるのは位置だけ」という比例推移の話になるわけです。
電圧については Tm∝V² ですから、電源電圧が10 % 下がると最大トルクは19 % も下がります。比例推移では守れない、電圧低下という別の脅威があることも押さえておきましょう。
💡 覚え方
「曲線は電源(電圧・周波数)が決め、山の高さは抵抗と無関係、山の位置は抵抗に比例」。Tm∝V²/(2x2) に r2 は入らず、sm=r2/x2 だけが動く。計算では r2/s1=(r2+R)/s2 の1本で挿入抵抗が求まる。
⚠️ よくある間違い
(ア)を「負荷」とするのが典型です。曲線は電動機側の特性で、負荷は運転点を決めるだけです。もう一つは「最大トルクも抵抗で変わる」と誤解すること——変わるのは位置だけで、高さは不変です。

コメント