今回は令和5年度下期 機械科目 A問題12を解説します。誘導加熱の原理・用途・表皮効果に関する記述のうち、誤っているものを選ぶ問題です。★電気加熱10(平成29年度A問題13)とほぼ完全に同一の問題(選択肢(5)の文言のみ「鉄,ステンレス」→「鉄」に軽微に変更)で、正解も同じ(4)です。
コイル内の導電性の被加熱物に交番磁界を加えると渦電流が流れ、ジュール熱で被加熱物自体が発熱します。渦電流は表皮効果によって表面に集中するため、周波数が高いほど内部までは加熱されにくくなる点が最大のポイントです。
ほぼ同じ問題が 【機械】平成29年度A問題13 でも出題されています。出題パターンが固定なので、セットで解けば確実な得点源になります。
令和5年度下期 機械科目 A問題12:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題12
電験3種 機械科目 【電気加熱】 令和5年度下期 A問題12
誘導加熱に関する記述として,誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ.
(1)産業用では金属の溶解や金属部品の熱処理などに用いられ,民生用では調理加熱に用いられている.
(2)金属製の被加熱物を交番磁界内に置くことで発生するジュール熱によって被加熱物自体が発熱する.
(3)被加熱物の透磁率が高いものほど加熱されやすい.
(4)被加熱物に印加する交番磁界の周波数が高いほど,被加熱物の内部が加熱されやすい.
(5)被加熱物として,銅,アルミよりも,鉄の方が加熱されやすい.
(1)産業用では金属の溶解や金属部品の熱処理などに用いられ,民生用では調理加熱に用いられている。
(2)金属製の被加熱物を交番磁界内に置くことで発生するジュール熱によって被加熱物自体が発熱する。
(3)被加熱物の透磁率が高いものほど加熱されやすい。
(4)被加熱物に印加する交番磁界の周波数が高いほど,被加熱物の内部が加熱されやすい。
(5)被加熱物として,銅,アルミよりも,鉄の方が加熱されやすい。
誤りは(4):高周波ほど表面に集中する
周波数を上げると表皮効果が強まり、渦電流は表面へ寄ります——内部は加熱されにくくなるのです。記述は逆になっています。
この1本の式で、(3)(4)(5)がすべて判定できます——μr が大きいと δ が小さい(表面に集中して加熱されやすい)、f が大きいと δ が小さい(内部に届かない)。


(5) 磁石にくっつくかどうかで判断できる
「銅、アルミよりも鉄の方が加熱されやすい」——身近な判断材料があります。
| 材料 | 磁石に付くか | 比透磁率 | 誘導加熱 |
| 鉄 | ★付く | 数百〜数千 | ★よく加熱される |
| 銅・アルミ | ★付かない | 1 | 加熱されにくい |
磁石に付く=透磁率が高い——だから磁束が集まり、渦電流も大きくなります。さらにヒステリシス損も加わるので、二重に有利です。
IH調理器の説明書に「鍋底に磁石が付くか確かめてください」と書かれている——まさにこの判定法です。試験でも同じ理屈で判断できます。
渦電流はなぜ流れるのか
磁束が変化すると、それを妨げる向きに起電力が生じます——レンツの法則です。
金属板の中では、その起電力によって渦を巻いた電流が流れます——行き先が決まっていないので、閉じたループになるのです。これが渦電流——抵抗があるのでジュール熱が生じます。
変圧器の鉄心では、この渦電流が損失になります——だから薄い鋼板を積層して、渦の通り道を細かく切る。誘導加熱では逆に、渦電流を大きくしたいので塊のまま使うことになります。
⚠️ よくある間違い
本問は平成29年度 A問題13 とほぼ同一——選択肢(5)の文言が「鉄、ステンレス」から「鉄」に変わっただけです。
正解も同じ(4)——珍しく番号まで一致しています。それでも本番では必ず選択肢を確認してください。
ステンレスには磁性のあるものとないものがある——だから「鉄」に絞ったほうが記述として正確です。出題側が表現を改めたと考えられます。
(4)を「よく加熱できるのだから正しい」と流さない——「内部が」という修飾語が判定の要です。
⏱️ 本番での進め方
①(4)★高周波は表面加熱。内部を狙うなら低周波。
②(5)★磁石に付くかどうかで判断できる。
③(3) 透磁率が高い=磁束が集まる+ヒステリシス損。
④δ=503√(ρ/(μrf)) 1本で(3)(4)(5)が判定できる。
💡 覚え方
「磁石に付く鍋はIH で使える」——透磁率が高いかどうかの、いちばん簡単な判定法です。そして「高周波は浅く、低周波は深く」——これで誘導加熱の問題はほぼ解けます。
ほぼ同一の問題が平成29年度 A問題13にあります(電気加熱:誘導加熱の記述の正誤判定)。正解も同じ(4) です。

IH調理器の構造
(1)にある「民生用では調理加熱」——IH調理器の中身を見ておきましょう。
| 部分 | 役割 |
| インバータ | ★商用50/60 Hz を20〜60 kHz へ変換 |
| 加熱コイル | 渦巻き状。交番磁界を作る |
| トッププレート | ★結晶化ガラス(磁界を通す・熱に強い) |
| 鍋 | ★ここで渦電流が発熱 |
トッププレートがガラスなのは、磁界を妨げないため——金属なら、そこで渦電流が生じてしまいます。誘電損失も小さいので、ほとんど発熱しません。
「プレートが熱いのは鍋から伝わった熱」——プレート自体が発熱しているわけではないのです。電子レンジの皿と同じ関係になります。
なぜ20〜60 kHz なのか
低すぎると、可聴域の音(うなり)が出ます——人の耳に聞こえる20 kHz より上にする必要があるのです。
高すぎると、浸透深さが浅くなりすぎ、スイッチング損失も増える——その兼ね合いで20〜60 kHz が選ばれています。δ=503√(ρ/(μrf)) で鉄なら0.1 mm 前後——鍋底の厚みには十分な深さです。
誘導加熱の周波数と用途
(1)の「金属の溶解や金属部品の熱処理」——用途によって周波数がまるで違います。
| 用途 | 周波数 | 浸透深さ |
| 大型の溶解炉 | ★50 Hz〜1 kHz | 数cm(全体を溶かす) |
| ろう付け・焼ばめ | 1〜50 kHz | 数mm |
| IH調理器 | 20〜60 kHz | 約0.1 mm |
| ★表面焼入れ | ★50〜400 kHz | ★0.5〜2 mm |
「浅くしか加熱できない」という制約を、逆に利用する——それが表面焼入れです。歯車の歯面だけを硬くし、内部は粘り強いまま残せます。
逆に溶解炉では全体を均一に溶かしたい——だから商用周波数のような低い周波数を使います。(4)の「周波数が高いほど内部が加熱されやすい」が誤りだと、この用途の対比からも分かります。
正誤判定を2段階で片づける
5つの記述を同じ重さで読む必要はありません——型で分けると速くなります。
| 段階 | 対象 | やること |
| ① | (1)(2) | 用途と原理の定義。流し読みでよい |
| ② | ★(3)(4)(5) | ★「〜ほど〜」の向きを式で確認 |
本問は「〜が高いほど」という記述が3つ——ここに誤りが仕込まれていると考えてよいでしょう。
δ=503√(ρ/(μrf)) を書き出せば——(3)μr が大きいと δ が小さい=表面に集中して加熱されやすい(正)、(4)f が大きいと δ が小さい=内部に届かない(誤)、(5)鉄は μr も ρ も大きい(正)。3つ同時に判定できます。
公式1本の価値
計算問題で使う公式が、正誤判定でも効く——これは電験3種の全分野に共通します。
「どの文字がどこにあるか」を覚えておくだけで、比例か反比例かが即座に分かるのです。公式を丸暗記するより、式の形を覚えるほうが応用が利きます。
まとめ
| (1)〜(3)(5) | 正しい記述 |
| (4) | 「周波数が高いほど内部が加熱されやすい」が誤り(実際は逆) |
| 答え | (4) |
▼あわせて解きたい関連問題
・誘導加熱の記述の正誤判定(渦電流・表皮効果):【機械】平成29年度A問題13
・各種電気加熱方式の記述の正誤判定:【機械】令和4年度下期A問題12

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