電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目で出題される、変圧器の温度上昇試験。本記事では、令和元年度 A問題9で問われた返還負荷法(かえし負荷法)の結線図に関する問題を、回路図を交えて解説します。
返還負荷法は、同一仕様の変圧器2台を接続し、外部からは損失分(鉄損+銅損)だけを供給して定格状態の発熱を再現する試験法です。カギは「鉄損は低圧側を並列にして定格電圧で供給」「銅損は高圧側を直列にして補助変圧器で定格電流を供給」という供給方法を正しく押さえることです。
令和元年度 機械科目 A問題9:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和元年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題9
電験3種 機械科目 【変圧器】 令和元年度 A問題9
変圧器の試験方法の一つに温度上昇試験がある。小形変圧器の場合は実負荷法を用いるが、電力用等の大形変圧器では返還負荷法を用いる。返還負荷法では、外部電源から鉄損と銅損に相当する電力のみを供給すればよいので試験電源が比較的小規模なもので済む。単相変圧器におけるこの試験の結線方法及び図中に示す鉄損、銅損の供給方法として、次の(1)〜(5)のうちから正しいものを一つ選べ。ただし、T₁、T₂は試験対象となる同じ仕様の変圧器、T₃は補助変圧器である。

出題のポイント:損失だけを供給して定格状態を再現する
返還負荷法(かえし負荷法)の狙いは、小さな電源で大形変圧器の温度上昇試験を行うことです。実際に定格容量の負荷をつなぐ実負荷法では、試験用に定格容量分の電源と負荷が要る——10 MV・A の変圧器なら10 MW の負荷が必要になり、現実的ではありません。
| 試験法 | 必要な電源容量 | 適用 |
| 実負荷法 | 定格容量と同等 | 小形変圧器 |
| 返還負荷法 | 損失分だけ(定格の数%) | 電力用の大形変圧器 |
同じ仕様の変圧器を2台向かい合わせにすると、電力は2台のあいだをぐるぐる回るだけで、外部からは失われた分(損失)を補充すればよくなります——これが「返還」という名前の由来です。

損失を2種類に分けて、別々に供給する
変圧器の損失は、電圧で決まるものと電流で決まるものに分かれます。この2つを別々の回路で供給するのが返還負荷法の核心です。
| 損失 | 別名 | 何で決まるか | どう供給するか |
| 鉄損 | 無負荷損 | 電圧(と周波数) | 低圧側を並列にして、定格周波数・定格電圧を加える |
| 銅損 | 負荷損 | 電流の2乗 | 高圧側を直列(逆向き)にして、補助変圧器で定格電流を流す |
鉄損は「定格電圧を加える」ことで再現する
鉄損はヒステリシス損とうず電流損の合計で、いずれも鉄心の磁束密度で決まります。磁束密度は加える電圧と周波数で決まるので、定格電圧・定格周波数を加えれば、負荷がなくても定格運転時と同じ鉄損が発生します。
T1 と T2 の低圧側を並列にして電源につなぐ——これで2台とも定格電圧を受け、それぞれに定格どおりの鉄損が生じます。
銅損は「定格電流を流す」ことで再現する
銅損は巻線抵抗による損失で、電流の2乗に比例します。だから定格電流さえ流せば、電圧が低くても定格運転時と同じ銅損が発生します。
高圧側の巻線を、電圧が打ち消し合う向きに直列接続します。2台の起電力が逆向きになるので、合計はほぼ0——そこに補助変圧器 T3 でわずかな電圧を加えると、大きな電流が循環します。
加える電圧は「2台分の短絡インピーダンス降下」だけで済みます。%Z が5 %なら、定格電圧の10 %程度——補助変圧器の容量が小さくてよいのはこのためです。

結線図を見分ける手順
5つの図を漫然と眺めるのではなく、2つの条件で順に落としていきます。
| 確認する順 | 見るところ | 正しい姿 |
| ① | 電源をつないでいるのはどちら側か | 低圧側(並列接続されている側) |
| ② | 低圧側は並列か直列か | 並列。2台に同じ定格電圧を加えるため |
| ③ | 高圧側は並列か直列か | 直列。電圧が打ち消し合う向き |
| ④ | 補助変圧器 T3 はどちらに入っているか | 高圧側の直列回路。定格電流 In を流すため |
☝️ ひっかけの作り方:「鉄損側と銅損側を入れ替えた図」が最も紛らわしい誤答肢です。高圧側に定格電圧を加え、低圧側に補助変圧器を入れる——一見もっともらしいが、これでは高圧側に大きな電源容量が必要になり、返還負荷法の目的(小さな電源で済ませる)に反します。
実務上も低圧側から電圧をかけるほうが安全で扱いやすい——「電圧は低圧側から、電流は高圧側で循環」と覚えておけば、図の判定に迷いません。
温度上昇試験そのものの目的を押さえる
そもそも温度上昇試験は何を確かめる試験なのでしょうか。定格で連続運転したときに、巻線や油の温度が規格の限度を超えないこと——それを実測で確認するのが目的です。
変圧器の寿命は絶縁物の劣化で決まり、劣化の速さは温度で決まります。おおよそ「6〜8 ℃上がると寿命が半分になる」と言われるほど温度の影響は大きく、だからこそ設計値どおりに冷えるかを実機で確かめる必要があります。
| 測る温度 | 測り方 | 限度の考え方 |
| 油温上昇 | タンク上部の油温を温度計で直接測る | 周囲温度からの上昇分で規定される |
| 巻線温度上昇 | 試験の前後で巻線抵抗を測り、抵抗の変化から平均温度を逆算する(抵抗法) | 絶縁種別ごとに許容値が決まっている |
巻線の温度は、温度計を差し込んで測ることができません——高電圧がかかっているうえ、巻線の内部には手が届かないからです。そこで銅の抵抗が温度に比例して増える性質を使い、抵抗値から平均温度を求めます。これが抵抗法です。
返還負荷法で本当に同じ温度になるのか
返還負荷法では、実際には定格容量の電力を送っていません。それでも温度上昇が再現できるのは、発熱の原因が「損失」だけだからです。
変圧器の中で熱になるのは、鉄損と銅損の2つです。この2つさえ定格運転時と同じ大きさで発生させれば、発熱量は同じ——したがって同じだけ温度が上がります。電力が実際に負荷へ流れているかどうかは、温度には関係ありません。
だから「低圧側に定格電圧を加えて鉄損を、高圧側に定格電流を流して銅損を」という2つの条件が両方そろっている必要があります。どちらか片方だけでは、発熱量が足りず試験になりません——本問が結線図で2つの回路を同時に見せている理由がここにあります。
なお、鉄損だけを供給する試験が無負荷試験、銅損だけを供給する試験が短絡試験です。返還負荷法は、その2つを同時に行っているようなもの——個別の試験と結びつけて理解すると、結線図が自然に描けるようになります。
⏱️ 本番での進め方
① 電源が低圧側の並列回路につながっている図を残す。
② 高圧側が直列で、そこに T3 が入っている図を残す。
③ この2条件で1つに絞れる。図の細部を全部読む必要はない。
④「鉄損=電圧、銅損=電流」の対応が全ての土台。
💡 覚え方
「鉄損は電圧で、銅損は電流で作る」——だから電圧を加える回路(低圧側並列)と電流を流す回路(高圧側直列)が分かれる。損失の分類が分かっていれば、結線図は理屈で復元できます。
補助変圧器 T3 に必要な容量
T3 が受け持つのは「定格電流を流すのに必要な電圧×定格電流」です。必要な電圧は2台分の短絡インピーダンス降下——これは短絡試験のときに加える電圧(インピーダンス電圧)と同じ考え方です。
10 MV・A の変圧器なら、補助変圧器は1 MV・A 程度——実負荷法で10 MW の負荷を用意することを思えば、圧倒的に現実的です。電源側にも損失分(鉄損)だけを供給すればよいので、試験設備全体が小さくて済みます。


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