電験3種の機械科目で問われるブラシレスDCモータの構造。本記事では、令和元年度 A問題6の穴埋め問題を解説します。【機械】令和3年度A問題8の論説と対になる基本問題です。
カギは「永久磁石が回転子、電機子巻線が固定子」と「回転位置を検出して半導体スイッチで電流を切り換える」の2点です。
令和元年度 機械科目 A問題6:問題文と選択肢
普通の直流電動機と何が入れ替わっているのかを確かめるところから始めます。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和元年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題6
電験3種 機械科目 【直流機】 令和元年度 A問題6
次の文章は、一般的なブラシレスDCモータに関する記述である。
ブラシレスDCモータは、(ア) が回転子側に、(イ) が固定子側に取り付けられた構造となっており、(イ) が回転しないため、(ウ) が必要な一般の直流電動機と異なる。しかし、何らかの方法で回転子の (エ) を検出して、(イ) への電流を切り換える必要がある。この電流の切り換えを、(オ) で構成された駆動回路を用いて実現している。ブラシレスDCモータは、(オ) の発達とともに発展してきたモータであり、上記の駆動回路が重要な役割を果たすモータである。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
| (ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | (オ) | |
|---|---|---|---|---|---|
| (1) | 電機子巻線 | 永久磁石 | ブラシと整流子 | 回転速度 | 半導体スイッチ |
| (2) | 電機子巻線 | 永久磁石 | ブラシとスリップリング | 回転速度 | 機械スイッチ |
| (3) | 永久磁石 | 電機子巻線 | ブラシと整流子 | 回転速度 | 半導体スイッチ |
| (4) | 永久磁石 | 電機子巻線 | ブラシとスリップリング | 回転位置 | 機械スイッチ |
| (5) | 永久磁石 | 電機子巻線 | ブラシと整流子 | 回転位置 | 半導体スイッチ |
出題のポイント:「回るものを入れ替えた」のがブラシレス
ブラシレスDCモータの構造は、普通の直流電動機と回るものが逆になっていると理解すれば一発で決まります。
| 一般の直流電動機(ブラシ付き) | ブラシレスDCモータ | |
| 回転子(回る) | 電機子巻線+整流子 | 永久磁石 |
| 固定子(回らない) | 界磁(磁石または巻線)+ブラシ | 電機子巻線 |
| 電流の切り替え | ブラシと整流子(機械的) | 半導体スイッチ(電子的) |
| 切り替えの基準 | 整流子片の位置=構造で自動的に決まる | 回転位置を検出して駆動回路が判断 |
| 摩耗する部品 | ブラシ(定期交換が必要) | なし(軸受を除く) |
(ア)=永久磁石、(イ)=電機子巻線。巻線が回らないからブラシが要らない——これが「ブラシレス」の意味そのものです。(ウ)=ブラシと整流子で、一般の直流電動機で必要だった機構を指します。

(エ):なぜ「回転速度」ではなく「回転位置」なのか
ここが本問でいちばん間違えやすい空欄です。どの巻線に電流を流すべきかを決めているのは、磁石が「いまどこを向いているか」——つまり回転位置です。
トルクが最大になるのは、磁石の磁束と電機子電流が作る磁束が90°ずれているときです。磁石が回っていくにつれてこの関係が崩れるので、ちょうどよいタイミングで次の巻線へ電流を切り替える必要があります。そのタイミングを決めるには、磁石の向き(位置)を知らなければなりません。
速度が分かっても、どの向きを向いているかは分かりません。逆に位置が分かれば、その変化率から速度も計算できます。より基本的な情報は位置のほうなのです。
| 位置検出の方法 | しくみ | 特徴 |
| ホール素子 | 磁石の磁束の向きを直接検出する | 最も一般的。3個で60°ごとの位置が分かる |
| エンコーダ・レゾルバ | 軸に取り付けた検出器で角度を測る | 高精度だが高価。サーボ用途 |
| センサレス | 通電していない巻線に現れる誘起電圧から推定する | 部品が減り安価だが、停止時と極低速では位置が分からない |
センサレス方式の弱点が「止まっているときに位置が分からない」ことなのも、検出しているのが位置だからです。回っていなければ誘起電圧が出ず、位置が推定できません——だから起動時だけは特別な手順(強制転流など)が必要になります。
☝️ ひっかけの作り方:「回転速度」はもっともらしく見えるダミーです。速度制御をする以上、速度も測っているのだろうと考えてしまいますが、通電する巻線を選ぶために必要なのは向きの情報——ここを区別できるかが問われています。

(オ):半導体スイッチが主役
(オ)=半導体スイッチ。MOSFET や IGBT を6個組んだインバータ回路で、ホール素子の信号に応じてオンオフのパターンを切り替えます。
問題文が「(オ)の発達とともに発展してきたモータであり」と書いているのは重要な指摘です。ブラシレスDCモータのアイデア自体は古くからありましたが、実用になったのはパワー半導体が安く高性能になってからです。モータ本体の技術ではなく、駆動回路の技術が普及を決めた——これがこのモータの本質です。

選択肢を絞り込む手順
| 段階 | 根拠 | 残る選択肢 |
| (ア)=永久磁石 | 「(イ)が回転しないため(ウ)が不要」=巻線が固定側 ⇒ 回転側は磁石 | (1)(2)が消えて(3)(4)(5) |
| (エ)=回転位置 | 通電する巻線を選ぶには磁石の向きが要る | (3)が消えて(4)(5) |
| (オ)=半導体スイッチ | 「(オ)の発達とともに発展」=パワー半導体 | (4)が消えて(5)に確定 |
(ウ)は検討しなくても決まります。なお(ウ)の誤答「ブラシとスリップリング」は、スリップリングが同期機や巻線形誘導機で使う部品である点で誤りです。整流子は切れ目のある円筒で電流の向きを切り替える、スリップリングは連続した輪で電流を渡すだけ——役割がまったく違います。
ブラシレスDCモータと同期電動機の関係
構造だけを見ると、ブラシレスDCモータは永久磁石同期電動機(PMSM)とまったく同じです。回転子が永久磁石、固定子が三相巻線——どこも違いません。では何が違うのでしょうか。
| ブラシレスDCモータ | 永久磁石同期電動機(PMSM) | |
| 構造 | 同じ(磁石の回転子+巻線の固定子) | 同じ |
| 電流の波形 | 方形波(120°通電) | 正弦波 |
| 位置検出 | ホール素子で60°ごとで足りる | 連続的な角度が必要(エンコーダ等) |
| 制御の複雑さ | 簡単・安価 | 複雑だがトルク脈動が小さく高効率 |
| 用途 | ファン・ポンプ・電動工具 | EV駆動・サーボ・エアコン圧縮機 |
違いは「どんな電流を流すか」だけです。ブラシレスDCモータは、ブラシ付き直流機の動きを電子回路で真似ているので、電流も直流機と同じような方形波になります。だから「DC」モータと呼ばれるのです——中を流れているのは交流なのに。
これは一般の直流電動機とまったく同じ事情です。直流機も巻線の中は交流で、整流子が機械的に直流へ変換していました。ブラシレスDCモータは、その整流子を半導体スイッチに置き換えただけ——だから名前に「DC」が残っているわけです。
⏱️ 本番での進め方
① 「(イ)が回転しないため(ウ)が不要」という文から、巻線が固定側だと読み取る。
② 検出するのは「位置」。通電する巻線を選ぶには向きの情報が要る。速度ではない。
③ 整流子とスリップリングを区別:整流子=直流機で向きを切り替える、スリップリング=同期機・巻線形誘導機で電流を渡すだけ。
④ 「(オ)の発達とともに発展」=半導体。機械スイッチでは高速な切り替えができない。
💡 覚え方
ブラシレスDCモータは「回るものが逆」——磁石が回り、巻線は固定。だからブラシと整流子が要らない。代わりに回転位置(速度ではない)をホール素子で検出し、半導体スイッチで通電を切り替える。構造はPMSMと同じで、違うのは電流波形(方形波か正弦波か)だけ。
⚠️ よくある間違い
(エ)を「回転速度」とするのが最頻です。どの巻線に流すかを決めるのは磁石の向き——位置が分かれば速度も計算できますが、逆はできません。もう一つは(ウ)を「ブラシとスリップリング」とする誤り。スリップリングは同期機・巻線形誘導機の部品で、直流機には整流子を使います。

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