今回は平成20年度 機械科目 A問題9を解説します。電力用半導体素子(半導体バルブデバイス)であるIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の構造・特徴に関する記述の正誤を判定する問題です。
IGBTはMOSFETとバイポーラトランジスタを1チップの素子上に組み込んだ構造です。ゲートGに正の電圧を加えるとMOSFET同様にチャネルが形成され、エミッタE−コレクタC間が導通します。
平成20年度 機械科目 A問題9:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成20年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題9
電験3種 機械科目 【パワーエレクトロニクス】 平成20年度 A問題9
電力用半導体素子(半導体バルブデバイス)であるIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)に関する記述として,正しいのは次のうちどれか。
(1)ターンオフ時の駆動ゲート電力がGTOに比べて大きい。
(2)自己消弧能力がない。
(3)MOS構造のゲートとバイポーラトランジスタとを組み合わせた構造をしている。
(4)MOS形FETパワートランジスタより高速でスイッチングできる。
(5)他の大電力用半導体素子に比べて,並列接続して使用することが困難な素子である。
出題のポイント:IGBTは2つのデバイスの合体
IGBTは Insulated Gate Bipolar Transistor の略——「絶縁ゲート」+「バイポーラトランジスタ」です。名前がそのまま構造を表しています。
| 部分 | 由来 | もたらす利点 |
| 入力側(ゲート) | MOS構造(MOSFET由来) | 電圧駆動なので駆動回路が簡単、消費電力も小さい |
| 出力側 | バイポーラトランジスタ | 高耐圧・大電流に耐え、オン電圧が低い |
MOSFETの「ゲートが扱いやすい」という長所と、バイポーラの「大電力を扱える」という長所を組み合わせた——だから(3)の記述が正しいのです。
この構造のおかげで、IGBTはインバータの主力デバイスになりました。電車・エアコン・産業用インバータ・太陽光パワコン——身の回りの電力変換のほとんどがIGBTで動いています。

誤りの4肢を1つずつ確認する
(1) ターンオフ時の駆動ゲート電力がGTOに比べて大きい → 誤り
逆です。IGBTのほうがはるかに小さい——IGBTは電圧駆動でゲート電流がほとんど流れません。
GTOは電流駆動で、しかもオフさせるには主電流の1/3〜1/5にもなる逆ゲート電流が必要です。1 000 A を流しているGTOをオフさせるのに200〜300 A のゲート電流——駆動回路が大がかりになるのが、GTOが姿を消した最大の理由でした。
(2) 自己消弧能力がない → 誤り
IGBTには自己消弧能力があります。ゲート電圧を取り去るだけでオフできる——だからPWM制御ができ、インバータの主力になれたのです。
自己消弧能力がないのはサイリスタです。「オフできるかどうか」がデバイスを分ける最大の境界線——ここを取り違えないようにしましょう。
(4) MOS形FETパワートランジスタより高速でスイッチングできる → 誤り
逆です。MOSFETのほうが速い——IGBTは出力側がバイポーラなので、少数キャリアの蓄積があります。
オフするときに、蓄積されたキャリアが消えるまで電流が流れ続ける——これをテール電流と呼び、スイッチング損失の原因になります。MOSFETはユニポーラなのでこの現象がなく、より高速です。
(5) 並列接続して使用することが困難 → 誤り
IGBTは並列接続しやすいデバイスです。オン電圧の温度係数が正——電流が多く流れた素子は温度が上がり、オン電圧も上がって電流が流れにくくなるという自動的なバランス作用が働きます。
この性質のおかげで、大容量が必要なら並列にすればよい——だから大電力の分野にもIGBTが進出できました。逆に温度係数が負のデバイスでは、電流が集中して1個が焼損するおそれがあり、並列接続が難しくなります。

誤りの4肢は「比較」で作られている
| 肢 | 比較の相手 | 正しい関係 |
| (1) | GTO | IGBTのほうがゲート駆動電力は小さい |
| (4) | パワーMOSFET | MOSFETのほうが高速 |
| (5) | 他の大電力用素子 | IGBTはむしろ並列接続しやすい |
3つの誤答が、いずれも他のデバイスとの比較で作られていることが分かります。IGBTの位置づけを「MOSFETとバイポーラの中間」と捉えておけば、どちらと比べてどうなのかが整理できます。
速さはMOSFET>IGBT>GTO、扱える電力はGTO≧IGBT>MOSFET——この順序を覚えておけば、比較の肢は判定できます。
⏱️ 本番での進め方
①「IGBT」という名前が構造そのもの。絶縁ゲート+バイポーラ。
② IGBTは自己消弧できる。できないのはサイリスタ。
③ 速さはMOSFET>IGBT。テール電流があるぶんIGBTは遅い。
④ IGBTは温度係数が正なので並列接続しやすい。
💡 覚え方
「IGBTはMOSFETの頭とバイポーラの体」——入口は扱いやすく、出口は力持ち。だから速さはMOSFETに劣り、容量はバイポーラ並み——この位置づけで、比較の肢はすべて判定できます。

IGBTの損失を数字で見積もる
IGBTの「オン電圧が低い」という長所を、具体的な数字で確かめてみましょう。デバイス選定の感覚がつかめます。
IGBTのオン電圧(コレクタ・エミッタ間飽和電圧)は、おおよそ1.5〜3 Vです。100 A を流していれば、導通損失は150〜300 W——これが常時発熱として現れます。
オン電圧×電流×通流率
オン電圧2 V、100 A、通流率0.5
| デバイス | オン時の電圧降下 | 100 A 流したときの損失 | 耐圧との関係 |
| IGBT | 1.5〜3 V(ほぼ一定) | 150〜300 W | 耐圧が高くてもあまり増えない |
| パワーMOSFET(低耐圧) | Ron×I(数mΩ×100 A=0.5 V程度) | 50 W 程度 | 低耐圧なら有利 |
| パワーMOSFET(高耐圧) | Ron が急増して数V以上 | 数百W | ★耐圧の2.5乗で悪化 |
MOSFETは抵抗として振る舞うので、電流が小さいうちは損失が非常に小さい——ところが高耐圧品ではオン抵抗が急増します。
IGBTはダイオードのように一定の電圧降下を持つので、大電流でも損失が線形にしか増えません——だから大電流・高耐圧の領域ではIGBTが有利になります。
「低電圧・小電流ならMOSFET、高電圧・大電流ならIGBT」——この住み分けは、オン電圧の振る舞いの違いから来ているのです。本問の(4)が「MOSFETより高速」を誤りとしているのも、この2つが得意分野を分け合っていることの裏返しだと言えます。
まとめ
| IGBTの構造 | MOS構造ゲート+バイポーラトランジスタ |
| 答え | (3) |
▼あわせて解きたい関連問題
・各種パワー半導体バルブデバイスの記述:【機械】平成23年度A問題10
・IGBTとパワーMOSFETの特性比較:【機械】令和5年度上期A問題10

コメント