電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「4機器の共通点と相違点」は機械科目全体の見取り図を問う総まとめ的テーマです。本記事では、平成30年度 A問題8を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
キーワードは3つ——「滑りsで変わる二次抵抗=誘導機」「界磁と電機子の独立制御=直流機」「出力に負荷角=同期機」。どれも機種の固有名詞級の特徴なので、読めた瞬間に答えが決まります。
平成30年度 機械科目 A問題8:問題文と選択肢
4つの機器を「その機械にしかない言葉」で名指ししていきます。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成30年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題8
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成30年度 A問題8(要約)
a.(ア)と、負荷抵抗を接続した(イ)の等価回路は、電源からの電流が励磁電流と負荷電流に分かれるなど共通点が多い。相違点は(ア)の二次側の負荷抵抗値が滑りsによって変化するところである。b. 界磁電流と電機子電流を独立して制御できる(ウ)は精密なトルク制御ができる。(ア)もインバータ制御によって(ウ)と同様な運転特性をもたせられる。c.(ウ)と(エ)は界磁電流で励磁を制御するなど共通点が多い。相違点は(エ)の出力に負荷角が関与するところである。
(1) 変圧器・誘導電動機・直流電動機・同期電動機 (2) 直流電動機・同期電動機・変圧器・誘導電動機 (3) 誘導電動機・変圧器・直流電動機・同期電動機 (4) 変圧器・直流電動機・誘導電動機・同期電動機 (5) 誘導電動機・変圧器・同期電動機・直流電動機
出題のポイント:4機器を一語で名指しできるか
この問題は、機械科目全体の見取り図を持っているかを試しています。4つの機器それぞれに「その機械にしかない言葉」があるので、それを拾えば数十秒で終わります。
| 機器 | 励磁の方式 | 負荷側の表れ方 | 固有のキーワード |
| 変圧器 | 交流・巻線兼用 | 固定の負荷抵抗 | 静止機・巻数比 |
| 誘導機 | 交流・巻線兼用 | r2′/s(滑りで変わる) | 滑り |
| 直流機 | 直流・界磁巻線 | E=kΦN | 界磁と電機子の独立制御 |
| 同期機 | 直流・界磁巻線 | P∝sinδ | 負荷角・同期速度 |
問題文に出てくる「滑り」「界磁電流と電機子電流の独立制御」「負荷角」——どれも機種の固有名詞と言ってよい言葉です。読めた瞬間に空欄が埋まります。

3つの記述を機器へ対応させる
記述a:「滑りによって変化する負荷抵抗」
等価回路の負荷抵抗が滑りで変わるのは誘導機だけです。(ア)=誘導電動機。比較相手として「負荷抵抗を接続した」静止機が(イ)=変圧器になります。
両者の等価回路が似ているのは、どちらも交流励磁で、電源からの電流が励磁電流と負荷電流に分かれるからです。違いは、誘導機の二次側だけが r2′/s という可変抵抗になっていることだけ——その「可変」の分が機械出力になります。
記述b:「界磁電流と電機子電流を独立して制御」
磁束とトルクを別々に操作できるのが直流機の強みです。(ウ)=直流電動機。界磁回路と電機子回路が物理的に分かれているから、片方だけを動かせます。
後半の「(ア)もインバータ制御によって(ウ)と同様な運転特性をもたせられる」——これがベクトル制御です。誘導機の電流を磁束成分とトルク成分に分解すれば、直流機のように独立制御できるという意味で、(ア)=誘導機とも整合します。
記述c:「出力に負荷角が関与」
負荷角は同期機の専売キーワードです。(エ)=同期電動機。


「滑り」と「負荷角」は似ていて違う
誘導機の滑りと同期機の負荷角は、どちらも「回転磁界と回転子のずれ」を表しています。しかし性質がまったく違うので、対比しておきましょう。
| 誘導機の滑り s | 同期機の負荷角 δ | |
| 何のずれか | 速度のずれ | 角度のずれ |
| 回転速度 | 負荷で変わる | 常に同期速度(変わらない) |
| 負荷が増えると | 滑りが増える(遅くなる) | 角度が開く(速度は同じ) |
| 限界を超えると | 停動して止まる | 脱調して同期を失う |
| 限界の値 | sm=r2/x2 | δ=90° |
同期機は「速度は絶対に変えず、角度で負荷に応じる」のです。ゴムひもで引っ張っているようなもので、負荷が重くなるほど伸びる(角度が開く)が、走る速さは同じ——伸びきると切れる(脱調する)という構図です。
誘導機は「速度を落として負荷に応じる」——だから定速度電動機とはいえ数 % は変動します。厳密な定速度が要るなら同期機という使い分けは、この違いから来ています。
ベクトル制御が変えたもの
記述bの後半「(ア)もインバータ制御によって(ウ)と同様な運転特性をもたせられる」は、電動機の歴史を一文で語っています。
| 時代 | 精密なトルク制御が要る用途 | 理由 |
| 〜1980年代 | 直流電動機 | 界磁と電機子を独立制御できるのは直流機だけだった |
| 1990年代〜 | 誘導電動機+ベクトル制御 | 演算で電流を分解できるようになった。ブラシがないぶん有利 |
| 近年 | 永久磁石同期電動機(PMSM) | 励磁電流が不要で高効率。電車・EV・エアコンへ |
「丈夫だが制御しにくい誘導機」と「制御しやすいが保守が要る直流機」——この二律背反を解いたのがベクトル制御です。マイコンの演算能力が上がったことで、誘導機の中で起きていることを実時間で計算できるようになりました。
そして今は永久磁石同期電動機がその先へ進んでいます。磁石が磁束を作ってくれるので励磁電流が要らず、二次銅損もない——本問の4機器の枠組みで言えば「界磁を磁石に置き換えた同期機」です。4機器の分類を理解しておくと、新しい機器も同じ枠組みで捉えられます。
⏱️ 本番での進め方
① 4語の名刺を持つ:滑り=誘導機、独立制御=直流機、負荷角=同期機、静止=変圧器。
② 「界磁電流」という語は直流機・同期機のもの。誘導機には界磁巻線がない。
③ 記述aの「滑り」を読み飛ばさない——(ア)(イ)を逆にすると(1)(4)へ。
④ ベクトル制御の文は誘導機を指す。「直流機と同様の特性」=直流機ではない。
変圧器だけが「静止機」であることの意味
4機器のうち、変圧器だけが回りません。この違いが、性能の差として素直に現れます。
| 変圧器(静止機) | 回転機(誘導機・直流機・同期機) | |
| 空隙 | ない(鉄心が閉じている) | ある(回転のために必要) |
| 励磁電流 | 定格の数 % | 誘導機で定格の30〜50 % |
| 機械損 | ない | ある(軸受の摩擦・風損) |
| 効率 | 98〜99.5 % | 80〜95 % |
| 力率 | 負荷次第(機器としては良い) | 遅れ(誘導機で0.8〜0.9) |
「回らない」というだけで、空隙がなくなり、機械損もなくなります。変圧器の効率が99 % に達するのは、回転機にはどうしても付いてくる2つの損失が、はじめから存在しないからです。
逆に言えば、回転機は「回るための代償」を払っているということです。空隙があるから励磁電流が大きく力率が悪い、軸受があるから機械損がある——これらは設計の巧拙ではなく、回転機であることの必然です。
記述aが「等価回路の共通点が多い」と言いながら、実際の性能は大きく違うのは、この一点によります。回路の形が同じでも、定数の値がまったく違う——誘導機の励磁電流が変圧器の10倍近いのは、空隙という物理的な違いがそのまま数字に出ているのです。
💡 覚え方
「滑り=誘導機、独立制御=直流機、負荷角=同期機、静止=変圧器」。滑りは速度のずれ、負荷角は角度のずれ——誘導機は遅くなって負荷に応じ、同期機は角度を開いて応じる。限界は sm(停動)と δ=90°(脱調)。ベクトル制御は誘導機を直流機のように使う技術。
⚠️ よくある間違い
(ア)(イ)を逆にするのが典型です。「滑りによって変化する」という一文が(ア)=誘導機を指定しています。もう一つは(ウ)に誘導機を入れること——「界磁電流」という言葉は界磁巻線を持つ機械(直流機・同期機)のもので、誘導機には界磁巻線がありません。

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