今回は平成23年度 機械科目 A問題10を解説します。整流ダイオード・サイリスタ・パワートランジスタ・パワーMOSFET・IGBTなど、各種パワー半導体バルブデバイスに関する記述の誤りを見つける問題です。
パワートランジスタは、遮断領域と飽和領域とを切り換えて電力スイッチとして使用するもので、パワーエレクトロニクスでは能動領域は使用されません。
平成23年度 機械科目 A問題10:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成23年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題10
電験3種 機械科目 【パワーエレクトロニクス】 平成23年度 A問題10
半導体電力変換装置では,整流ダイオード,サイリスタ,パワートランジスタ(バイポーラパワートランジスタ),パワーMOSFET,IGBTなどのパワー半導体デバイスがバルブデバイスとして用いられている。
バルブデバイスに関する記述として,誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)整流ダイオードは,n形半導体とp形半導体とによるpn接合で整流を行う。
(2)逆阻止三端子サイリスタは,ターンオンだけが制御可能なバルブデバイスである。
(3)パワートランジスタは,遮断領域と能動領域とを切り換えて電力スイッチとして使用する。
(4)パワーMOSFETは,主に電圧が低い変換装置において高い周波数でスイッチングする用途に用いられる。
(5)IGBTは,バイポーラとMOSFETとの複合機能デバイスであり,それぞれの長所を併せもつ。
出題のポイント:トランジスタは飽和領域で使う
(3)の「遮断領域と能動領域とを切り換えて」が誤りです。電力スイッチとして使うなら、遮断領域と飽和領域を切り換えます——能動領域は増幅回路で使う領域です。
| 動作領域 | 状態 | 電圧降下 | 損失 | 用途 |
| 遮断領域 | 完全にオフ | 大(電源電圧) | 小(電流がほぼ0) | スイッチのオフ |
| 能動領域 | 中途半端に導通 | 中 | ★大(電圧×電流が大きい) | 増幅回路 |
| 飽和領域 | 完全にオン | 小(1 V 前後) | 小 | スイッチのオン |
能動領域では、電圧も電流も中途半端に大きい——その積である損失が最大になります。電力用のスイッチとしては、絶対に長居してはいけない領域です。
パワーエレクトロニクスの基本思想は「オンかオフか、どちらかに振り切る」こと。オンなら電圧が小さく、オフなら電流が小さい——どちらも損失が小さくて済むからです。
だから「電力スイッチとして使う」と書かれていれば、飽和領域と遮断領域の往復でなければなりません。能動領域を使うのは、あくまで信号を増幅する回路です。

正しい4つの記述を確認する
| デバイス | オン制御 | オフ制御 | 逆方向 | 主な用途 |
| ダイオード | 不可(電圧しだい) | 不可 | 阻止 | 整流・還流 |
| サイリスタ | ゲート電流で可 | 不可(電流しだい) | 阻止 | 大容量整流・位相制御 |
| パワートランジスタ | ベース電流で可 | 可 | 阻止 | 中容量(IGBTに置き換わった) |
| パワーMOSFET | ゲート電圧で可 | 可 | ボディーダイオードで導通 | 低電圧・高周波 |
| IGBT | ゲート電圧で可 | 可 | 阻止(逆並列ダイオードを付ける) | 高電圧・中周波(インバータの主力) |
(1) ダイオードはpn接合で整流する
n形とp形の半導体を接合すると、一方向にしか電流が流れない——これがpn接合の整流作用です。整流ダイオードの最も基本的な性質で、正しい記述です。
(2) 逆阻止三端子サイリスタはターンオンだけ制御できる
「逆阻止三端子サイリスタ」は、いわゆる普通のサイリスタ(SCR)の正式名称です。アノード・カソード・ゲートの3端子を持ち、逆方向の電圧を阻止する——だから「逆阻止三端子」。
ゲートに電流を流せばオンできますが、オフはできません。オフになるのは順方向の電流が保持電流を下回ったとき——回路まかせです。「ターンオンだけが制御可能」という記述は正確です。
(4) パワーMOSFETは低電圧・高周波向き
MOSFETはユニポーラデバイスで、少数キャリアの蓄積がないため高速にスイッチングできます。一方でオン抵抗が耐圧の2.5乗程度で増えるので、高電圧では損失が大きくなり不利——だから低電圧・高周波の用途に使われます。
(5) IGBTは両者の長所を併せもつ
IGBTは、入力段がMOSFET、出力段がバイポーラトランジスタという構造です。ゲートは電圧駆動で扱いやすく(MOSFETの長所)、出力は高耐圧・大電流に耐える(バイポーラの長所)——まさに複合機能デバイスです。

⏱️ 本番での進め方
① スイッチとして使うなら「遮断領域と飽和領域」。能動領域は増幅用。
② 能動領域は損失が最大。パワエレでは避ける領域。
③ 他の4肢はデバイスの基本知識。全部正しいので復習に使える。
④「逆阻止三端子サイリスタ」=普通のSCR。名前に驚かない。
💡 覚え方
「パワエレはオンかオフか、中間に居座らない」——中間(能動領域)は損失が最大だから。この思想が分かっていれば、(3)の誤りは自然に見えてきます。

スイッチング損失という、もう一つの損失
(3)で問われた「能動領域を通らない」ことの意味を、もう少し深く見てみましょう。実際のデバイスは、オンからオフへ一瞬で移れるわけではありません——切り替わる途中で必ず能動領域を通過します。
その通過時間はごく短い(マイクロ秒以下)のですが、その間は電圧も電流も大きく、瞬間的に大きな損失が発生します——これがスイッチング損失です。
| 損失の種類 | いつ発生するか | 何に比例するか | 減らすには |
| 導通損失(オン損失) | オンしている間ずっと | オン電圧×電流×通流率 | オン電圧の低いデバイスを選ぶ |
| スイッチング損失 | オン・オフの切り替わりの瞬間 | ★スイッチング周波数に比例 | 切り替わりを速くする/周波数を下げる |
スイッチング損失は周波数に比例します。1秒間に1万回切り替えれば、1万回分の損失が積み上がる——だから高周波化には限界があるのです。
ここでデバイスの使い分けの理由が見えてきます。パワーMOSFETは切り替わりが速いのでスイッチング損失が小さく、高周波向き——一方でオン抵抗が大きいので、高電圧では導通損失が大きくなります。
IGBTはその逆で、オン電圧が低く導通損失は小さいが、少数キャリアの蓄積があって切り替わりが遅い——だから中程度の周波数までです。本問の(4)「MOSFETは主に電圧が低い変換装置において高い周波数で」という記述は、この特性を正確に述べているのです。
近年のSiC(炭化ケイ素)デバイスは、この両立を狙ったものです。高耐圧でもオン抵抗が小さく、切り替わりも速い——従来のトレードオフを緩和する材料として実用化が進んでいます。
デバイスの名前は「何を制御できるか」で読む
パワー半導体デバイスの名前は長くて覚えにくいものですが、語のひとつひとつに意味があります——分解して読めば、性質がそのまま書いてあることが分かります。
| 名前 | 語の意味 | そこから分かる性質 |
| 逆阻止三端子サイリスタ | 逆阻止=逆電圧を止める/三端子=ゲートがある | 逆方向には流せず、ゲートでオンだけ制御できる |
| 双方向サイリスタ(トライアック) | 双方向=どちらにも流せる | 交流をそのまま制御できる |
| GTO(Gate Turn-Off)サイリスタ | ゲートでターンオフできる | サイリスタなのにオフも制御できる |
| IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor) | 絶縁ゲート+バイポーラ | ゲートは電圧駆動、出力はバイポーラの高耐圧 |
「逆阻止三端子サイリスタ」という長い名前も、「逆は止める・ゲートがある」と読めばただのSCRです。本問の(2)がこの正式名称を使っているのは、用語を正確に知っているかを試しているとも言えます。
GTOは「ゲートでオフできるサイリスタ」——サイリスタの欠点を克服したデバイスです。大電力のインバータで使われてきましたが、近年は大容量IGBTに置き換わりつつあります。
名前から性質を読み取れるようになると、初めて見るデバイス名でも見当がつきます——暗記の負担がぐっと減るので、意識してみてください。
まとめ
| 誤りの記述 | (3) パワートランジスタは遮断・能動領域を切換え |
| 正しくは | 遮断・飽和領域の切換え |
| 答え | (3) |
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