今回は令和7年度下期 機械科目 A問題12を解説します。電気炉の炉壁の2点で内部温度を測り、そこから単位面積当たりの熱損失を求める計算問題です。
使う式はフーリエの法則 q = λ×(温度こう配)の1本だけ。温度こう配=温度差÷距離差で、距離は必ずメートルに直す——これだけで解けます。「壁の厚さ」も「炉内温度」も不要で、2点の測定値だけで熱流束が決まるのがこの問題の面白いところです。
出題のポイント

令和7年度下期 機械科目 A問題12:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和7年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題12
電験3種 機械科目 【電気加熱】 令和7年度下期 A問題12
電気炉の壁の外面に垂直に小穴をあけ,温度計を挿入して壁の外面から10cmと30cmの箇所で壁の内部温度を測定したところ,それぞれ72℃と142℃の値が得られた.炉壁の熱伝導率を0.94W/(m・K)とすれば,この炉壁からの単位面積当たりの熱損失[W/m2]の値として,最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ.
ただし,壁面に垂直な方向の温度こう配は一定とする.
電気炉の壁の外面に垂直に小穴をあけ、温度計を挿入して壁の外面から10cmと30cmの箇所で壁の内部温度を測定したところ、それぞれ72℃と142℃の値が得られた。炉壁の熱伝導率を0.94W/(m・K)とすれば、この炉壁からの単位面積当たりの熱損失[W/m2]の値として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
ただし、壁面に垂直な方向の温度こう配は一定とする。
(1)1 490 (2)329 (3)165 (4)14.9 (5)3.29 W/m2
ポイント解説:熱流束=熱伝導率×温度こう配
熱が物体の中を伝わる現象はフーリエの法則で表されます。単位面積・単位時間当たりに流れる熱量(熱流束)q は、温度こう配に比例する——式にすると q = λ × (ΔT/Δx) です。λ は熱伝導率 [W/(m·K)] で、値が大きいほど熱を通しやすい材料を意味します。
この式はオームの法則とそっくりです。温度差が電圧、熱流が電流、熱抵抗が電気抵抗に対応します。「温度こう配」は電気でいえば「単位長さ当たりの電位差」にあたり、1 m 進むごとに何度下がるかを表します。
本問の測定値は外面から10 cm の位置で72℃、30 cm の位置で142℃。奥(炉の内側)ほど高温で、当然の結果です。この2点から温度こう配が出ます。
温度こう配 = (142 − 72)/(0.30 − 0.10) = 70/0.20 = 350 K/m。cm をそのまま使わずメートルに直すのが最大の注意点です。10 cm = 0.10 m、30 cm = 0.30 m。
あとは熱伝導率を掛けるだけ。q = 0.94 × 350 = 329 W/m2——答えは(2)です。「壁面に垂直な方向の温度こう配は一定」という条件があるので、この350 K/m は壁のどこでも同じ。だから壁の厚さも炉内温度も知る必要がないのです。
問題の解説
STEP1 測定点の距離と温度を整理する
外面から 0.10 m の点:72 ℃。
外面から 0.30 m の点:142 ℃。
cm → m の換算をここで済ませておくのがミス防止のコツ。
STEP2 温度こう配を求める
ΔT = 142 − 72 = 70 K(温度差なので℃でもKでも同じ値)。
Δx = 0.30 − 0.10 = 0.20 m。
温度こう配 = 70/0.20 = 350 K/m。
STEP3 フーリエの法則で熱流束を出す
q = λ × (ΔT/Δx) = 0.94 × 350。
= 329 W/m2 ⇒ (2)。
STEP4 単位で検算する
[W/(m·K)] × [K/m] = [W/m2] ⇒ 求める単位と一致。
単位を掛け合わせて答えの単位になるかを見るだけで、桁違いの誤答は全部はじけます。
STEP5 値の妥当性を確かめる
λ ≒ 1 なので q はおよそ温度こう配の数値(350 前後)になるはず。
選択肢のうち数百のオーダーは(2)329 と(3)165 だけ——ここまで絞れれば、あとは距離差0.20 m を確認するだけです。
答え:(2)
💡 覚え方
フーリエの法則 q = λ×(ΔT/Δx)。λ[W/(m·K)] × 温度こう配[K/m] = 熱流束[W/m2]——単位を掛けて答えの単位になることを確認する癖をつけると事故が起きません。温度こう配は「温度差÷距離差」で、距離は必ずメートル。熱の問題は「温度差=電圧、熱流=電流、熱抵抗=抵抗」と電気回路に置き換えると見通しが良くなります(熱抵抗 R = 厚さ/(λ×面積))。
⚠️ よくある間違い
①cm をメートルに直し忘れるのが最大の失点源です。(5) 3.29=0.94×(70/20) は、距離差を 20 cm のまま使った値。λ の単位が W/(m·K) と「m」で定義されているのですから、距離もメートルに揃えなければ辻褄が合いません。単位換算は式に入れる前に済ませるのが鉄則です。
②距離差を足してしまう:(3) 165=0.94×(70/0.40) は、0.30 − 0.10 とすべきところを 0.30 + 0.10 = 0.40 としたときの値です。こう配は「2点の差」——引き算です。
③桁を間違える:(1) 1 490 と (4) 14.9 は、単位換算の誤りを重ねたときに出る値で、正解の 329 とはそれぞれ約4.5倍・約1/22と大きく離れています。λ ≒ 1 なので、答えは温度こう配(350)と同じくらいの数になる——この見積もりだけで両方はじけます。
④温度をケルビンに直そうとする:ここでは不要です。温度「差」は℃でもKでも同じ値(142−72=70)なので、273.15 を足しても引いても結果は変わりません。時間の無駄になるだけです。
⑤壁の厚さや炉内温度を探す:問題文には書かれていませんが、「温度こう配は一定」なので2点の測定値だけで熱流束が決まります。与えられていない量を使おうとして手が止まらないように。
熱流束と熱流の違い
本問が求めたのは「単位面積当たり」の熱損失——面積を掛ける前の量です。
| 量 | 記号 | 単位 | 面積を含むか |
| ★熱流束 | q | ★W/m2 | ★含まない |
| 熱流 | Φ | W | ★含む(Φ=qS) |
「率」や「束」が付けば単位面積あたり——電気の電流密度[A/m2]と電流[A]の関係と同じです。
本問で炉壁の面積が与えられていないのは、熱流束を問うているから——面積が要らないのです。もし「炉全体の熱損失[W]」を問われたら、壁の面積が必要になります。
なぜ壁の厚さも炉内温度も不要なのか
「温度こう配は一定」という条件——これが本問の鍵です。
定常状態で、壁が一様な材料でできていれば、壁の中の温度は直線的に下がります——どこで測っても温度こう配は同じになるのです。
| 位置 | 温度(本問の直線から) |
| 外面(0 m) | 37 ℃ |
| ★0.10 m | ★72 ℃(測定値) |
| 0.20 m | 107 ℃ |
| ★0.30 m | ★142 ℃(測定値) |
0.10 m 進むごとに35 K ずつ変化——350 K/m という温度こう配です。2点さえ測れば、全体の傾きが決まることになります。
だから壁の厚さも炉内温度も要りません——与えられていない値は使わないのが正しい姿勢です。「情報が足りないのでは」と迷わないでください。
λ=0.94 は耐火材料
熱伝導率0.94 W/(m·K)——耐火れんがなどの炉壁材に近い値です。
コンクリート(1.6)より低く、断熱材(0.04)よりはるかに高い——「高温に耐えつつ、ある程度は断熱する」という材料になります。
より断熱したいなら、外側に断熱材を重ねる——多層壁として熱抵抗を直列に足すことになります。そのとき各層の温度こう配は、λ に反比例して変わるのです。
熱抵抗を使う計算は令和6年度下期 A問題12(電気加熱:熱回路のオームの法則)にあります。
フーリエの法則の3つの書き方
同じ法則でも、場面に応じて式の形が変わります——どれも中身は同じです。
| 形 | 式 | 使う場面 |
| ★熱流束 | ★q=λ(ΔT/Δx) | ★単位面積あたり(本問) |
| 熱流 | Φ=λS(ΔT/L) | 面積が与えられたとき |
| 熱抵抗 | Φ=ΔT/R、R=L/(λS) | 多層壁・回路的に扱うとき |
3つとも Φ=λSΔT/L から導ける——面積で割れば熱流束、まとめれば熱抵抗です。
本問は面積が与えられていないので熱流束の形——問題文が何を求めているかで、使う形が決まります。
単位で検算する習慣
[W/(m·K)]×[K/m]=[W/m2]——掛け合わせると、ちょうど熱流束の単位になります。
もし距離をcm のまま使えば[K/cm]——単位が合わなくなるので、その時点で気づけます。単位を追うだけで、桁違いの誤りはほぼ防げるのです。
電験3種では単位が答えの一部——選択肢の単位を最初に確認するだけでも、何を求めるべきかが明確になります。
まとめ
| フーリエの法則 | q=λ×(ΔT/Δx) [W/m²] |
| 熱伝導率 | λ=0.94 W/(m·K) |
| 温度差 | ΔT=142−72=70 K(℃でもKでも同じ) |
| 距離差 | Δx=0.30−0.10=0.20 m(cmをmに換算) |
| 温度こう配 | 70/0.20=350 K/m |
| 熱流束 | q=0.94×350=329 W/m² |
| 単位の検算 | [W/(m·K)]×[K/m]=[W/m²] |
| 答え | (2) |
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