電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「三相誘導電動機の始動法」は全電圧・Y−Δ・始動補償器・二次抵抗の4本柱を一気に総ざらいできる頻出テーマです。本記事では、平成30年度 A問題4を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
正誤問題のカギは数値の一点:Y−Δ始動の始動トルクは 1/3 倍(電圧が 1/√3 倍→トルクはその2乗)。「1/√3 倍」と書かれていたら即アウトです。
平成30年度 機械科目 A問題4:問題文と選択肢

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成30年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題4
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成30年度 A問題4(要約)
三相誘導電動機の始動法に関する記述のうち誤っているものを選ぶ。(1) 全電圧始動法=直入れ、出力が電源容量に対し十分小さい場合、始動電流は定格の数倍。(2) 二重かご形は始動時に電流が外側導体に偏り始動特性が改善、大きな容量まで全電圧始動可。(3) Y−Δ始動法は始動時のみY結線、5〜15 kW程度に適用、始動トルクはΔ結線始動時の 1/√3 倍。(4) 始動補償器法は三相単巻変圧器のタップ切換で低電圧始動、15 kW程度超に適用。(5) 巻線形は始動抵抗器で二次抵抗を大きくし、比例推移により始動電流を抑えつつ始動トルクを増大。
出題のポイント:1/√3 と 1/3 の使い分け
Y-Δ始動には3つの比が登場します。そのうち1/√3 になるのは電圧だけ——正誤問題はここを狙ってきます。
| 量 | Y結線/Δ結線の比 | 理由 |
| 1相にかかる電圧 | 1/√3 | Yでは相電圧が線間電圧の1/√3 |
| 始動トルク | 1/3 | T∝V2 なので (1/√3)2 |
| 電源から見た線電流 | 1/3 | 相電流1/√3 × 線電流の関係でもう1/√3 |
選択肢(3)は「始動トルクはΔ結線始動時の 1/√3 倍」と書いています。正しくは1/3 倍——ここが誤りです。

5つの記述を判定する
| 記述 | 内容 | 判定 | 根拠 |
| (1) | 全電圧始動=直入れ、始動電流は定格の数倍 | 正しい | 定格の5〜7倍。小容量なら系統への影響が小さい |
| (2) | 二重かご形は始動特性が改善、大きな容量まで全電圧始動可 | 正しい | 始動電流を抑えつつトルクを増やせる |
| (3) | Y-Δ始動の始動トルクは 1/√3 倍 | 誤り ✗ | 正しくは 1/3 倍 |
| (4) | 始動補償器法は三相単巻変圧器のタップ切換、15 kW 超に適用 | 正しい | コンドルファ始動 |
| (5) | 巻線形は始動抵抗器で比例推移、電流を抑えつつトルク増大 | 正しい | 比例推移の定義そのもの |


なぜ二重かご形なら大容量でも直入れできるのか
(2)の「大きな容量まで全電圧始動可」——ここは理由まで説明できるようにしておきたい記述です。
直入れが使えない理由は、始動電流が大きすぎて系統の電圧を下げてしまうからでした。二重かご形は、その始動電流を構造だけで抑えます。
| 普通かご形 | 二重かご形 | |
| 始動時の二次抵抗 | 小さい(運転時と同じ) | 大きい(外側導体に電流が集中) |
| 始動電流 | 定格の6〜7倍 | 定格の4〜5倍 |
| 始動トルク | 定格の1倍程度 | 定格の1.5〜2倍 |
| 直入れできる容量 | 数kW まで | 十数kW 以上でも |
「電流が減ってトルクが増える」——これは電圧を下げる始動法では絶対にできないことです。Y-Δ始動は電流もトルクも同じ1/3になってしまいますが、二重かご形は二次抵抗を変えているので、比例推移と同じ効果が得られます。
つまり(2)と(5)は、同じ「二次抵抗を大きくする」という発想の、構造版と回路版です。(2)は自動で、(5)は人が操作して実現している——そう読めると、5つの記述が一つの物語としてつながります。
始動法を選ぶ順序
5つの記述は、実は「どういう順番で検討するか」を並べたものとも読めます。
| 検討の順 | 方法 | 使える条件 | だめなら |
| ① まず直入れ | 全電圧始動 | 容量が小さい/電源に余裕がある | ②へ |
| ② 電動機を変える | 二重かご形・深溝かご形 | 構造で始動特性を改善 | ③へ |
| ③ 電圧を下げる | Y-Δ(5〜15 kW)/始動補償器(15 kW〜) | 軽負荷で始動できる | ④へ |
| ④ 二次抵抗を使う | 巻線形+始動抵抗器 | 重負荷で始動する必要がある | インバータへ |
「装置を足さずに済む方法から順に検討する」のが実務の考え方です。直入れが使えるならそれがいちばん安いのですから、まずそれを試して、だめなら次へ——この順序で覚えると、5つの記述の並びにも納得がいきます。
⏱️ 本番での進め方
① 1/√3 は電圧だけ。電流もトルクも1/3。
② 容量の階段:直入れ(小)→ Y-Δ(5〜15 kW)→ 始動補償器(15 kW〜)。
③ (2)と(5)は同じ発想の構造版と回路版——どちらも二次抵抗を大きくしている。
④ 「電流が減ってトルクが増える」のは二次抵抗を変える方式だけ。
始動電流は実際に何倍流れるのか
記述(1)の「始動電流は定格の数倍」——具体的な数字を持っておくと、他の記述の判定にも使えます。
| 始動方式 | 始動電流(定格に対して) | 始動トルク(定格に対して) | 適用容量 |
| 全電圧始動(普通かご形) | 6〜7倍 | 1〜1.5倍 | 数kW まで |
| 全電圧始動(二重かご形) | 4〜5倍 | 1.5〜2倍 | 十数kW まで |
| Y-Δ始動 | 2〜2.5倍 | 0.3〜0.5倍 | 5〜15 kW |
| 始動補償器(65 % タップ) | 2.5〜3倍 | 0.4〜0.6倍 | 15 kW 超 |
| 巻線形+始動抵抗器 | 1〜1.5倍 | 2倍以上も可能 | 重始動用途 |
この表を眺めると、巻線形だけが別格だと分かります。始動電流を定格程度まで抑えながら、始動トルクは定格の2倍以上出せる——電圧を下げる方式では絶対に到達できない領域です。
記述(5)が「始動電流を抑えつつ始動トルクを増大」と書いているのは、まさにこの点を指しています。「抑えつつ増大」という、一見矛盾する表現が成立するのは比例推移だけ——この一文が正しいと判定できるかどうかで、理解の深さが測れます。
直入れできるかどうかは何で決まるのか
記述(1)の「出力が電源容量に対し十分小さい場合」——この判断は実務では具体的な基準で行われます。
始動電流が流れると、変圧器や配線のインピーダンスで電圧が下がります。その電圧降下が許容範囲(一般に10〜15 %)に収まるかどうかが判定基準です。
始動電流が変圧器容量に対してどれだけ大きいかで決まる。
例えば500 kV·A の変圧器(%Z=4 %)に、15 kW の電動機を直入れしたとしましょう。始動時の皮相電力は概ね定格入力の6倍ですから、およそ100 kV·A。電圧降下は 100/500×4=0.8 % ——まったく問題ありません。
ところが同じ変圧器に150 kW の電動機を直入れすると、始動時の皮相電力は約1 000 kV·A。電圧降下は 1000/500×4=8 % となり、ぎりぎり許容範囲です。これ以上大きな電動機なら、何らかの始動法が必要になります。
つまり「何kW まで直入れできるか」は電動機だけでは決まりません。電源側の変圧器容量との比で決まる——記述(1)が「電源容量に対し」と書いているのは、この意味です。同じ電動機でも、大きな工場なら直入れでき、小さな事業所ならできないということが起こります。
💡 覚え方
「Y-Δ始動は電圧1/√3・電流1/3・トルク1/3」。1/√3 は相電圧の比で、トルクは2乗なので1/3、線電流もΔ/Yの関係でもう1/√3 掛かって1/3。二重かご形が大容量まで直入れできるのは、始動時だけ二次抵抗が大きくなるから——電流が減ってトルクが増える。
⚠️ よくある間違い
(3)の「1/√3倍」を読み流すのが本問の唯一の落とし穴です。適用容量(5〜15 kW)が正しいので、つい全体を正しいと判定してしまいます。数値が出てきたら必ず確認する——正誤問題では「一箇所だけ数値が違う」という作り方が定番です。

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