今回は令和6年度下期 電力科目 B問題16、中距離送電線をT形等価回路でモデル化して電圧を求める複素数計算です。線路インピーダンスZを中央のアドミタンスYの両側にZ/2ずつ振り分けた回路を、受電端から順に電流・電圧をたどっていきます。
解き方は受電端から送電端へ一歩ずつ。受電端電流Irを基準の複素数で表し、右側のZ/2で電圧降下→中央点電圧Vc、VcにアドミタンスYを掛けて充電電流Ic→送電端電流Is、左側のZ/2で電圧降下→送電端電圧Vs1。すべて複素数で計算するのがコツです。
出題のポイント:T形等価回路の複素数計算

受電端電流を遅れ30度の複素数で表し、受電端からZ/2、中央アドミタンス、もう一方のZ/2の順にたどります。絶対値は各設問の最後に求めます。
令和6年度下期 電力科目 B問題16:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和6年度下期 第三種電気主任技術者試験」電力科目 B問題16
電験3種 電力科目 【送電の計算】 令和6年度下期 B問題16
図1のようなT形回路(1相分)があり、抵抗r=20Ω、リアクタンスx=80Ω、アドミタンスY=0.0007Sである。Vr1=150kV、Ir=400A、負荷の力率(遅れ)cosθr=√3/2のとき、次の(a)及び(b)の問に答えよ。
(a) Vc〔kV〕として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)134.2 (2)152.3 (3)161.9 (4)172.0 (5)180.4 kV
(b) Vs1〔kV〕として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)145.9 (2)155.4 (3)160.6 (4)170.1 (5)180.7 kV


受電端から中央点電圧を求める

受電端を基準にして、複素数で一歩ずつ進みます。
下ごしらえ:3つの量を複素数にする
| 量 | 複素数にすると | 考え方 |
| ★受電端電圧 Vr1 | ★★150000+j0 | ★★これを基準(実軸)に置く |
| ★受電端電流 Ir | ★★346.4−j200 | ★★遅れ30度なので虚部が負 |
| ★片側インピーダンス Z/2 | ★★10+j40 | ★★r とx を半分ずつ |
★
★答え
受電端から送電端へ向かうので、電圧降下は足し算です——さかのぼる向きだから。
遅れ力率なので、電流の虚部はマイナスになります——ここを間違えると符号が逆になるのです。
充電電流を加えて送電端電圧を求める

中央のアドミタンスに流れる電流を足してから、もう半分を進みます。
★
★
★答え
充電電流が加わると、送電端電流は受電端電流より小さくなります——進み電流が遅れ成分を打ち消すから。
400 A が338 A 相当まで減っています——虚部が−200から−87へ。
それでも電圧は上がります——受電端150 kV に対し送電端170 kVです。
T形回路をたどる5つの手順
| 手順 | すること | 本問の値 |
| ★① | ★★Ir を複素数にする | ★346.4−j200 |
| ★② | ★★Vc=Vr1+Ir(Z/2) | ★161464+j11856 |
| ★③ | ★★Ic=Vc·jY | ★−8.30+j113.0 |
| ★④ | ★★Is=Ir+Ic | ★338.1−j87.0 |
| ★⑤ | ★★Vs1=Vc+Is(Z/2) | ★168324+j24510 |
受電端から送電端へ、一方通行でたどるだけです——後戻りはありません。
複素数のまま持ち回るのが要点です——途中で絶対値を取ると誤差が出るのです。
絶対値は最後の1回だけ取ります——そこで初めて実数になるのです。
手順を覚えてしまえば、数値が変わっても同じです——類題にそのまま使えます。
⚠️ よくある間違い
Z/2 を Z のまま使う——T形なので両側に半分ずつです。
遅れ電流の虚部をプラスにする——遅れはマイナスです。
途中で絶対値を取ってしまう——最後まで複素数のまま。
電圧降下を引き算にする——受電端から送電端へさかのぼるので足す。
Ic の計算で j を掛け忘れる——アドミタンスは jYです。
⏱️ 本番での進め方
①★受電端を基準(実軸)に置く。
②★遅れ力率なら電流の虚部はマイナス。
③★T形は両側にZ/2、中央にY。
④★絶対値は最後に1回だけ取る。
💡 覚え方
「Z/2 → Y → Z/2 と一方通行」——受電端から送電端へたどるだけです。複素数のまま持ち回る——絶対値は最後の1回。
π形等価回路の問題は平成24年度 B問題16(送電の計算:π形回路の線路定数)にあります。
なぜ複素数で計算するのか
大きさと向きを同時に扱えるからです。
| 扱い方 | できること | 本問での必要性 |
| ★大きさだけ | ★足し算ができない | ★★Ir+Ic が求まらない |
| ★★複素数 | ★★そのまま足し引きできる | ★★手順どおりに進める |
受電端電流は遅れ、充電電流は進みです——向きが違うので単純に足せないのです。
400 A と113 A を足しても513 A にはなりません——実際は349 A ほどです。
複素数なら、実部と虚部をそれぞれ足すだけ——向きが自動的に考慮されるのです。
だから交流回路では複素数を使います——本問はその練習になっています。
充電電流が送電端電流を減らす
数字を並べると、はっきり分かります。
| 電流 | 複素数 | 大きさ | 性質 |
| ★受電端 Ir | ★★346.4−j200 | ★400 A | ★★遅れ30度 |
| ★充電 Ic | ★★−8.30+j113.0 | ★約113 A | ★★ほぼ進み90度 |
| ★送電端 Is | ★★338.1−j87.0 | ★約349 A | ★★遅れが浅くなった |
虚部が−200から−87へ、半分以下になりました——充電電流が遅れ分を打ち消したのです。
大きさも400 A から349 A へ減っています——足したのに減るのが交流の面白いところ。
これは線路自身が力率を改善しているのと同じです——静電容量が進み無効電力を出しているから。
軽負荷ならこれが行きすぎて、フェランチ現象になります——同じしくみの別の顔です。
複素数計算を速く進めるこつ
掛け算の展開を機械的に行います。
この形を覚えておけば、迷わず展開できます——j²=−1 を毎回考えなくてよいのです。
j を掛けるだけなら、実部と虚部を入れ替えて符号を1つ変えます——90度回すという意味です。
絶対値は √(実部²+虚部²) で出します——最後の1回だけ。
手順が決まっているので、練習すれば確実に得点できます——B問題の中では取りやすい部類です。
まとめ
| Ir | 400∠-30°=346.4-j200 A |
| Z/2 | 10+j40 Ω |
| (a)Vc | Vr1+Ir(Z/2)=161.9kV |
| Ic→Is | Ic=Vc·jY、Is=Ir+Ic |
| (b)Vs1 | Vc+Is(Z/2)=170.1kV |
| 答え | (a)-(3),(b)-(4) |
▼あわせて解きたい関連問題
・π形等価回路の計算(送電の計算27):【電力】平成24年度 B問題16
・線路定数と等価回路(架空送電17):【電力】令和2年度 A問題10

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