電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「誘導起電力と滑り」は繰り返し出題される最重要の基礎テーマです。本記事では、令和5年度上期 A問題3を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
埋めるのは「回転磁界」「打ち消す」「一次」「二次」「s倍」の5つ。特に(オ)は「回れば s 倍」——回転中の二次誘導起電力は停止時の s 倍です。
令和5年度上期 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
s倍・1/s倍・(1−s)倍の3つの係数を仕分けるところから始めます。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度上期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和5年度上期 A問題3(要約)
固定子巻線に電流が流れると(ア)が生じ、回転子巻線に起電力が誘導されトルクが生じる。回転子電流の起磁力を(イ)ように固定子巻線に電流が流れる。停止時は原理的に変圧器と同じで、固定子巻線=(ウ)巻線、回転子巻線=(エ)巻線に相当。回転中は、(エ)誘導起電力の大きさは停止時の(オ)倍となる。
(1) 交番磁界・打ち消す・二次・一次・1−s (2) 回転磁界・打ち消す・一次・二次・1/s (3) 回転磁界・増加させる・二次・一次・s (4) 交番磁界・増加させる・二次・一次・1/s (5) 回転磁界・打ち消す・一次・二次・s
本問は平成28年度 A問題3(誘導機40)とほぼ同一の再出題です。「回れば s 倍」を固めれば、次に出ても瞬殺できます。
出題のポイント:s倍・1/s倍・(1−s)倍の帰属
誘導機には滑り s の絡む係数が3種類あります。この3つの帰属を取り違えさせるのが、穴埋め問題の定番の手口です。
| 係数 | 何に付くか | 意味 |
| s 倍 | 回転中の二次誘導起電力 E2s=sE2 二次周波数 f2=sf1 | 実際に回転子に現れる物理量。相対速度が s 倍だから |
| 1/s 倍 | 等価回路の二次抵抗 r2/s | 計算の都合で作った回路上の表現。実在する抵抗ではない |
| (1−s) 倍 | 機械出力 Po=(1−s)P2 | 二次入力のうち仕事になる割合 |
「実物は s 倍、回路表現は 1/s 倍、出力は (1−s) 倍」——この3行を先に書いてから問題を読むと、迷いようがなくなります。

空欄を確定する
(ア)(イ):回転磁界とレンツの法則
三相巻線に電流を流せば回転磁界。(ア)=回転磁界で、この一語だけで(1)(4)が消えます。
回転子電流の起磁力を「打ち消す」ように一次電流が流れる——レンツの法則そのものです。(イ)=打ち消す。変圧器で二次電流が増えると一次電流も増えるのとまったく同じ仕組みで、「増加させる」なら磁束が際限なく増えて発散してしまいます。
(ウ)(エ):電源側が一次、誘導される側が二次
停止している誘導機は、変圧器そのものです。電源につながる固定子が一次、電磁誘導で起電力が生じる回転子が二次。(ウ)=一次、(エ)=二次。
(オ):回れば s 倍
誘導起電力は磁界を切る速さに比例するのですから、相対速度が s 倍なら起電力も s 倍。周波数も同じ理屈で s 倍です。(オ)=s。



極端値で検算する
係数を選ぶ問題は、s=0 と s=1 を代入して意味が通るか確かめるだけで、ほぼ全部の罠が外れます。
| 係数の候補 | s=1(停止) | s=0(同期速度) | 判定 |
| s 倍 | E2(最大) | 0(磁界を切らない) | 両端とも物理と一致 ✓ |
| 1/s 倍 | E2 | 無限大(破綻) | ✗ |
| (1−s) 倍 | 0(停止時にゼロ?) | E2 | ✗ 停止時が最大のはず |
同期速度で回っていれば回転子は磁界に対して静止しているのと同じですから、起電力はゼロでなければおかしい。逆に停止していれば相対速度が最大=起電力も最大——s 倍だけがこの両端を満たします。
二次周波数が s 倍であることの意味
(オ)で確かめた f2=sf1 は、実は誘導機のあちこちに効いてきます。数字を入れてみましょう(電源50 Hz・4極・定格滑り0.03)。
| 運転状態 | 滑り s | 二次周波数 sf1 | 回転子鉄心での鉄損 | 二次誘導起電力 |
| 始動の瞬間 | 1 | 50 Hz | 大きい | 最大(E2) |
| 定格運転 | 0.03 | 1.5 Hz | ほぼ無視できる | 0.03E2 |
回転子の鉄損がほとんど無視できるのは、この 1.5 Hz という低さのおかげです。鉄損は周波数に比例(ヒステリシス損)~2乗(渦電流損)で効くので、定格運転中の回転子鉄心はほとんど直流磁界を受けているのと同じ——だから誘導機の損失計算では固定子鉄損しか数えないのが普通なのです。
逆に始動時は50 Hzですから、回転子導体に表皮効果が現れます。深溝かご形や二重かご形は、この「始動時だけ周波数が高い」性質を利用して、始動時だけ二次抵抗を大きくする仕掛けです。(オ)の s 倍は、単なる係数ではなく設計に直結する事実だと知っておいてください。
なぜ等価回路では 1/s 倍になるのか
実物の二次側は「起電力 sE2・周波数 sf1」で回っています。これでは一次側と周波数が違って一つの回路図に描けません。そこで両方を s で割って、静止した二次回路に置き換えます。
r2/s は実在する抵抗ではありません。さらに r2/s=r2+r2(1−s)/s と分けると、前半が本物の二次銅損、後半が機械出力に対応する「架空の抵抗」になります。この分解が「黄金比」の正体です。
(オ)で 1/s を選んでしまう人が多いのは、この等価回路の r2/s が印象に残っているからです。実物に現れるのは s 倍、計算の都合で作った回路上の表現が 1/s 倍——この区別さえ付けば二度と間違えません。
⏱️ 本番での進め方
① (ア)=回転磁界だけで(1)(4)が消える。三相なら必ず回転磁界。
② (オ)は極端値チェック:s=0で0、s=1で最大——s 倍だけが両端を満たす。
③ 3係数の帰属:実物=s倍/回路表現=1/s倍/出力=(1−s)倍。
④ (イ)は「打ち消す」——レンツの法則。「増加させる」は発散するのであり得ない。
誘導機と変圧器はどこまで同じで、どこから違うのか
問題文が「停止時は原理的に変圧器と同じ」と述べているとおり、誘導機は「二次側が回る変圧器」です。どこまで同じでどこから違うのかを整理しておきましょう。
| 変圧器 | 誘導機 | |
| 一次側 | 電源につながる巻線 | 固定子巻線 |
| 二次側 | 負荷につながる巻線 | 回転子巻線(短絡または外部抵抗) |
| 磁気回路 | 鉄心が閉じている | 空隙(エアギャップ)がある |
| 励磁電流 | 定格の数 % | 定格の30〜50 %(空隙があるため大きい) |
| 二次周波数 | 一次と同じ | sf1(回転すると下がる) |
| 二次側の出力 | 電気として取り出す | 大部分が機械出力になる |
いちばん大きな違いは空隙の有無です。変圧器の鉄心は隙間なく閉じているのに対し、誘導機は回転子と固定子の間に必ず空隙があります。空気は鉄より磁気抵抗がはるかに大きいので、同じ磁束を作るのに大きな励磁電流が要る——誘導電動機の力率が変圧器ほど良くならない根本原因がここにあります。
だから誘導電動機の空隙はできるだけ狭く作られます(小形機で0.3 mm程度)。狭くすれば励磁電流が減って力率が上がる——ただし狭すぎると軸受のわずかな摩耗で回転子が固定子に接触するため、機械的な限界との妥協点で決まっています。
もうひとつの違いが「二次周波数が滑りとともに下がる」ことで、これが本問の(オ)そのものです。変圧器では一次と二次の周波数は必ず同じ——回るからこそ周波数がずれるのであり、この一点が誘導機を変圧器から分けると言えます。
★同一問題:平成28年度 A問題3の再出題
この問題は平成28年度 A問題3とほぼ同一の再出題です。問題文の展開も、5つの空欄の答えも、正解の番号まで同じでした。
| 平成28年度 A問題3 | 令和5年度上期 A問題3(本問) | |
| (ア)(イ) | 回転磁界・打ち消す | 回転磁界・打ち消す(同じ) |
| (ウ)(エ) | 一次・二次 | 一次・二次(同じ) |
| (オ) | s 倍 | s 倍(同じ) |
| 正解の番号 | (5) | (5) |
7年ぶりに、選択肢の並びも変えずに出題されました。これは珍しいことで、同じ問題を再出題するときに選択肢を並べ替えて正解番号を動かす例は直流機に複数あります——今回たまたま並べ替えがなかっただけと考えてください。
7年空けても同じ文面で出るのは、この論点が誘導機を理解する入口だからです。「三相だから回転磁界」「レンツの法則だから打ち消す」「電源側が一次」「回れば s 倍」——4つの理由をそれぞれ一言で言えるようにしておけば、どんな聞かれ方をしても崩れません。
💡 覚え方
「回れば s 倍、止まれば変圧器」。相対速度 ns−n=sns だから、二次誘導起電力も二次周波数も停止時の s 倍。等価回路の r2/s は分母分子を s で割った書き換えであって、実在する抵抗ではない。実物=s倍/回路=1/s倍/出力=(1−s)倍。
⚠️ よくある間違い
(オ)に 1/s を入れるのが最頻の誤りです。等価回路の r2/s と混同しているのですが、1/s では同期速度で起電力が無限大になり物理的に破綻します。もう一つは(ウ)(エ)を逆にすること——電源につながる側が一次です。

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