今回は平成19年度 電力科目 A問題2を解説します。汽力発電所の各部の汽水のエンタルピー(タービン入口3487kJ/kg・タービン出口2270kJ/kg・復水器出口138kJ/kg)から、ランキンサイクルの効率を求める問題です。
式はη=(h₁−h₂)/(h₁−h₃)の1本。分子はタービンで取り出した仕事、分母はボイラで加えた熱。「どの差が仕事で、どの差が受熱か」を体で覚えるのがこの問題の価値です。
平成19年度 電力科目 A問題2:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成19年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題2
電験3種 電力科目 【火力】 平成19年度 A問題2
ある汽力発電所において、各部の汽水の温度及び単位質量当たりのエンタルピー[kJ/kg]が下表の値であるとき、このランキンサイクルの効率[%]の値として、最も近いのは次のうちどれか。
タービン入口の過熱蒸気のエンタルピー h₁=3487[kJ/kg]、タービン出口の湿り蒸気のエンタルピー h₂=2270[kJ/kg]、復水器出口の飽和水のエンタルピー h₃=138[kJ/kg]
箇所 エンタルピー[kJ/kg] タービン入口の過熱蒸気(h₁) 3 487 タービン出口の湿り蒸気(h₂) 2 270 復水器出口の飽和水(h₃) 138 (1)34.9 (2)36.3 (3)39.1 (4)43.3 (5)53.6 %

式に当てはめるだけ
★36.3 %
分子はタービンで取り出した仕事、分母はボイラで加えた熱——効率の定義そのものです。
3つのエンタルピーが表す状態
| 記号 | 場所 | 状態 | 本問の値 |
| ★h₁ | ★タービン入口 | ★過熱蒸気 | ★3,487 kJ/kg |
| ★h₂ | ★タービン出口 | ★湿り蒸気 | ★2,270 kJ/kg |
| ★h₃ | ★復水器出口 | ★飽和水 | ★138 kJ/kg |
エンタルピーは「その状態の水(蒸気)1 kg が持つエネルギー」——基準は0 ℃ の水です。
h₃=138 kJ/kg は約33 ℃ の水——水の比熱4.19 で割ると33 ℃ になります。復水器が33 ℃ まで冷やしたということです。
熱の行き先を確かめる
★100 %
★36.3 %
★63.7 %
1217+2132=3349——加えた熱がぴったり分かれています。
捨てた熱が63.7 %——復水器の損失が最大だという事実が、数字で確かめられます。
実際の発電所では、これに再熱・再生を加えて効率を上げます——本問は基本形の値だと考えてください。
⚠️ よくある間違い
分母を h₁ だけにしてしまう——1217/3487=34.9 % となり選択肢(1)に一致します。
加えた熱は h₁−h₃——復水器を出た水(h₃)を h₁ まで持ち上げた分です。h₁ そのものではありません。
分子を h₁−h₃ としてしまう——それは加えた熱。取り出した仕事は h₁−h₂ です。
h₂ と h₃ を取り違える——(3487−138)/(3487−2270)=275 % となってあり得ない値になります。効率が100 % を超えたら、必ずどこかが誤りです。
選択肢(5)の53.6 % は 1−h₂/h₁ など——もっともらしい誤りが用意されています。
⏱️ 本番での進め方
①★分子=h₁−h₂(仕事)、分母=h₁−h₃(加えた熱)。
②h₁ だけを分母にすると(1)に誘導される。
③★(h₁−h₂)+(h₂−h₃)=(h₁−h₃) で検算できる。
④効率が100 % を超えたら計算違い。
💡 覚え方
「仕事わる加えた熱」——効率の定義に立ち返れば式は作れます。加えた熱は h₃ から h₁ まで——ゼロからではありません。
ランキンサイクルの4過程は平成20年度 A問題3(火力:ランキンサイクルの4過程)にあります。
エンタルピーとは何か
「その状態の物質1 kg が持っているエネルギー」——内部エネルギーに圧力の仕事を足したものです。
蒸気は流れながら仕事をします——そのとき、後ろから押される分のエネルギーも含めて考えるのです。
だから流れのある系では、内部エネルギーではなくエンタルピーを使う——タービンの計算に便利な量だと言えます。
水と蒸気のエンタルピーの目安
| 状態 | 比エンタルピー | 覚え方 |
| 0 ℃ の水 | ★0 kJ/kg | ★基準点 |
| 100 ℃ の水 | 約419 kJ/kg | 4.19×100 |
| ★100 ℃ の蒸気 | ★約2,676 kJ/kg | ★蒸発熱2,257 が加わる |
| ★600 ℃ の過熱蒸気 | ★約3,500 kJ/kg | ★本問の h₁ に近い |
水を蒸気にするだけで2,257 kJ/kg も要ります——温度を上げる分よりずっと大きいのです。
逆に復水器では、この蒸発熱を丸ごと捨てることになります——損失が大きい理由がここにあります。
ポンプの仕事を無視してよい理由
厳密には、給水ポンプも仕事をしています——それでも式に現れません。
★24 kJ/kg
★わずか2 %
タービンが1,217 kJ/kg を取り出すのに対し、ポンプは24 kJ/kg——2 % 程度です。
水はほとんど縮まないので、加圧に要る仕事が小さい——これがランキンサイクルの大きな利点になります。
もし気体を圧縮するなら、圧縮機の仕事は膨大——ガスタービンでは、タービン出力の半分以上が圧縮機に食われます。
水を使うことで、その無駄を避けている——だから汽力発電はランキンサイクルなのです。
実際の発電所の効率と比べる
本問の36.3 % は、基本のランキンサイクルの値——実機はもう少し高くなります。
| 条件 | 熱効率 | 差の理由 |
| ★本問(基本形) | ★36.3 % | ★再熱も再生もない |
| 再熱再生あり | 41〜43 % | ★抽気で給水を温め、途中で再熱する |
| USC+再熱再生 | 43 % 超 | 蒸気条件も上げる |
5〜7 ポイントの差——再熱と再生がどれだけ効いているかが分かります。
なお本問の値は発電端——所内で使う電力を引いた送電端では、さらに数 % 下がることになります。
試験問題では、どちらを問われているかを条件文で確かめてください。
エンタルピー差で考える利点
温度や圧力ではなく、エンタルピーで与えられているのが本問の特徴です。
温度と圧力から状態を求めるには、蒸気表が要ります——試験では持ち込めません。
だからエンタルピーの値を直接与えて、引き算と割り算だけで解けるようにしている——出題者の配慮だと言えます。
逆に言えば、式さえ覚えていれば確実に得点できる問題——落としたくないところです。
覚えるべきは η=(h₁−h₂)/(h₁−h₃) の1本だけ——3つの値がどの場所のものかを問題文で確かめ、当てはめる。それで答えが出ます。
この1問で押さえること
ランキンサイクルの効率は、3つのエンタルピーから求まります——分子は h₁−h₂、分母は h₁−h₃。
分母を h₁ だけにすると34.9 % となり、選択肢(1)に誘導されます——加えた熱は h₃ から測ると覚えておきましょう。
検算は (h₁−h₂)+(h₂−h₃)=(h₁−h₃)——仕事と捨てた熱の合計が、加えた熱に一致します。
まとめ
| h₁−h₂ | タービンで取り出した仕事=1217kJ/kg |
| h₁−h₃ | ボイラで受け取った熱=3349kJ/kg |
| h₂−h₃ | 復水器で捨てる熱=2132kJ/kg |
| 効率 | η=1217/3349≒36.3%→(2) |
| 前提 | 給水ポンプの仕事は無視 |
▼あわせて解きたい関連問題
・タービン効率の計算(火力18・同じエンタルピー差の発想):【電力】令和4年度上期 A問題3
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