今回は平成19年度 電力科目 A問題4を解説します。軽水炉の燃料・軽水の役割・BWRとPWRの区別、そして原子炉固有の安定性をもたらす現象を埋める空欄補充問題です。
前半は令和4年度下期(原子力7)と同じですが、(オ)が違います。本問は「冷却材沸騰の影響で」中性子が減る——これはボイド効果。「燃料の温度上昇でU238の吸収が増える」ならドップラー効果。本文が説明しているメカニズムで選び分けます。
平成19年度 電力科目 A問題4:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成19年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題4
電験3種 電力科目 【原子力】 平成19年度 A問題4
軽水炉は、(ア)を原子燃料とし、冷却材と(イ)に軽水を用いた原子炉であり、わが国の商用原子力発電所に広く用いられている。この軽水炉には、蒸気を原子炉の中で直接発生する(ウ)原子炉と蒸気発生器を介して蒸気を作る(エ)原子炉とがある。
沸騰水型原子炉では、何らかの原因により原子炉の核分裂反応による熱出力が増加して、炉内温度が上昇した場合でも、それに伴う冷却材沸騰の影響でウラン235に吸収される熱中性子が自然に減り、原子炉の暴走が抑制される。これは、(オ)と呼ばれ、原子炉固有の安定性をもたらす現象の一つとして知られている。上記の記述中の空白箇所(ア)〜(オ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (エ) (オ) (1) 低濃縮ウラン 減速材 沸騰水型 加圧水型 ボイド効果 (2) 高濃縮ウラン 減速材 沸騰水型 加圧水型 ノイマン効果 (3) プルトニウム 加速材 加圧水型 沸騰水型 キュリー効果 (4) 低濃縮ウラン 減速材 加圧水型 沸騰水型 キュリー効果 (5) 高濃縮ウラン 加速材 沸騰水型 加圧水型 ボイド効果

(オ) ボイド効果とは
冷却材が沸騰して泡(ボイド)ができると、出力が下がります。
| 段階 | 起きること |
| ① | ★何かの原因で熱出力が増える |
| ② | ★炉内の温度が上がり、冷却材の沸騰が増える |
| ★③ | ★泡が増えて、水(減速材)の量が減る |
| ★④ | ★中性子が十分に減速されなくなる |
| ⑤ | ★ウラン235に吸収される熱中性子が減り、出力が下がる |
問題文の「冷却材沸騰の影響でウラン235に吸収される熱中性子が自然に減り」——この一句がボイド効果の説明です。
減速材が減れば、中性子は速いまま——速い中性子はウラン235に吸収されにくいのです。
だから核分裂が減り、出力が下がる——自動的に暴走が止まることになります。
沸騰水型では炉内で沸騰させるので、この効果が大きく働きます——問題文が「沸騰水型原子炉では」と限定しているのはそのためです。
ボイド効果は出力調整にも使う
同じ性質を、意図的に利用したのが再循環流量による出力調整です。
| 再循環流量 | ボイドの量 | 減速の効き | 出力 |
| ★増やす | ★泡が押し流されて減る | ★よく効く | ★上がる |
| ★減らす | ★泡が溜まって増える | ★効きにくい | ★下がる |
安全性としてのボイド効果と、出力調整としてのボイド効果——同じ現象の2つの側面です。
勝手に働けば安全性、意図的に使えば出力調整——沸騰水型ならではの性質だと言えます。
加圧水型では炉内が沸騰しないので、この手が使えません——だからほう素濃度で調整することになります。
固有の安全性を支える3つの効果
| 効果 | きっかけ | 働く仕組み | 方式 |
| ★ドップラー効果 | ★燃料の温度が上がる | ★ウラン238が中性子を吸いやすくなる | ★両方式 |
| ★ボイド効果 | ★冷却材が沸騰して泡が増える | ★減速材が減り、熱中性子が減る | ★沸騰水型が主 |
| 減速材温度係数 | 冷却材の温度が上がる | 密度が下がり減速が効きにくくなる | 両方式 |
3つとも負のフィードバック——出力が上がれば抑える方向に働きます。
本問はボイド効果、令和4年度下期はドップラー効果——説明文で見分けます。
| ★平成19年度 A4(本問) | ★令和4年度下期 A4 | |
| (ア)〜(エ) | ★同一の文 | ★同一の文 |
| ★(オ)の説明 | ★冷却材沸騰で熱中性子が減る | ★燃料の温度上昇でウラン238の吸収が増える |
| ★(オ)の答え | ★ボイド効果 | ★ドップラー効果 |
(ア)〜(エ)がまったく同じなので、そこは即答できます——差が出るのは(オ)だけです。
⚠️ よくある間違い
(オ)を「ドップラー効果」としてしまう——本問の選択肢にはありませんが、令和4年度下期と混同すると危険です。
問題文が「冷却材沸騰の影響で」と書いている——ボイド効果です。
(オ)を「ノイマン効果」「キュリー効果」としてしまう——選択肢(2)(3)(4)。いずれも原子炉の用語としては存在しません。もっともらしい造語です。
(ア)を「高濃縮ウラン」としてしまう——選択肢(2)(5)。軽水炉は低濃縮ウランです。
(ア)と(オ)の2欄で確定できます。
⏱️ 本番での進め方
①(オ)★「冷却材沸騰」ならボイド効果。
②「燃料の温度上昇」ならドップラー効果。
③ノイマン効果・キュリー効果は存在しない造語。
④★ボイド効果は出力調整にも使われる(再循環流量)。
💡 覚え方
「泡が増えると減速材が減る」——だから出力が下がります。同じ性質を意図的に使えば再循環流量による出力調整——安全性と調整の両面を持っています。
ドップラー効果を答えさせる問題が令和4年度下期 A問題4(原子力:原子炉の型と特性)にあります。再循環流量による出力調整は平成20年度 A問題4(原子力:PWRとBWRの出力調整)へ。
存在しない用語に惑わされない
本問の選択肢には、実在しない用語が混ぜられています。
| 用語 | 実在するか | 備考 |
| ★ボイド効果 | ★する | ★本問の正解 |
| ★ドップラー効果 | ★する | ★燃料温度による効果 |
| ★ノイマン効果 | ★しない | ★原子炉の用語ではない |
| ★キュリー効果 | ★しない | ★キュリーは放射能の単位 |
| ★加速材 | ★しない | ★減速材が正しい |
人名がついた効果は、いかにもそれらしく見えます——けれども原子炉で使う用語は限られています。
固有の安全性を説明する効果は、ボイド効果とドップラー効果——この2つを覚えておけば足ります。
「キュリー」は放射能の古い単位——効果の名前ではありません。
軽水炉の名前の対応
| ★沸騰水型(BWR) | ★加圧水型(PWR) | |
| ★蒸気の作り方 | ★原子炉の中で直接 | ★蒸気発生器を介して |
| 英語 | Boiling Water Reactor | Pressurized Water Reactor |
問題文の「蒸気を原子炉の中で直接発生する」が沸騰水型——名前がそのまま説明になっています。
加圧水型でボイド効果は働くか
加圧水型では炉内を沸騰させません——では、ボイド効果はないのでしょうか。
| 方式 | 通常運転時 | 異常時 |
| ★沸騰水型 | ★常にボイドがあり、効果が大きく働く | ★さらに増える |
| ★加圧水型 | ★ボイドはほとんどない | ★沸騰すれば同じ効果が働く |
加圧水型でも、圧力が下がって沸騰すればボイド効果は働きます——物理現象そのものは方式によりません。
けれども通常運転では泡がないので、出力調整には使えない——だから「沸騰水型では」と限定されるのです。
加圧水型の主役は減速材温度係数とドップラー効果——役割分担が方式によって違うことになります。
減速材が減ると、なぜ中性子が減速されないのか
中性子は水素原子核にぶつかって減速します——水素は中性子とほぼ同じ重さだからです。
玉突きで、同じ重さの球に当たると勢いを大きく失います——だから水素は減速材として優れているのです。
泡が増えれば、その水素が減る——ぶつかる相手がいなくなり、中性子は速いままになります。
速い中性子はウラン235にほとんど吸収されません——だから核分裂が減るのです。
要点をもう一度
本問の主題は、原子炉が自分で暴走を止める仕組みです。
| 空欄 | 答え | 決め手 |
| (ア) | 低濃縮ウラン | ★軽水炉は3〜5 % |
| (イ) | 減速材 | ★「加速材」は存在しない |
| (ウ) | 沸騰水型 | ★炉内で直接蒸気を作る |
| (エ) | 加圧水型 | ★蒸気発生器を介する |
| (オ) | ボイド効果 | ★冷却材の沸騰による |
(ア)と(オ)の2欄で選択肢は(1)に確定します。
「制御棒を入れなくても出力が下がる」——それが固有の安全性です。
人の操作にも電源にも頼らない——物理法則そのものが安全装置になっていることになります。
まとめ
| (ア)(イ) | 低濃縮ウラン+軽水(冷却材・減速材) |
| (ウ)(エ) | 直接発生=沸騰水型/蒸気発生器=加圧水型 |
| (オ)の読み方 | 「冷却材沸騰の影響で」=ボイド効果 |
| 対比 | 燃料温度↑・U238吸収↑ならドップラー効果(R04下問4) |
| 答え | (1) |
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