今回は令和6年度下期 機械科目 A問題13を解説します。プロセス制御でよく用いられるPID制御のうち、積分動作・微分動作・比例動作がそれぞれどの特性の改善に有効かを問う空所補充問題です。この章の最終問題にあたります。
積分動作は定常特性の改善、微分動作は過渡特性の改善に効き、比例動作は両方をある程度改善できるという、PID各動作の役割分担を押さえれば解けます。
令和6年度下期 機械科目 A問題13:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和6年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題13
電験3種 機械科目 【自動制御】 令和6年度下期 A問題13
次の文章は,プロセス制御に関する記述である。
プロセス制御にはPID制御が非常によく用いられている。その中で積分動作は主として(ア)特性の改善に,微分動作は(イ)特性の改善に有効であり,また,(ウ)動作は両方の特性を,ともにある程度改善することができる。これらの動作をディジタル処理を介して行う方法が最近よく用いられている。
上記の記述中の空白箇所(ア)〜(ウ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(ア) (イ) (ウ) (1) 定常 過渡 加算 (2) 定常 過渡 比例 (3) 過渡 定常 比例 (4) 過渡 定常 加算 (5) 定常 過渡 減算
出題のポイント:I は定常、D は過渡
PID制御の3つの動作が、それぞれ何を改善するのか——役割分担さえ押さえれば即答できる問題です。
| 動作 | 操作量が応じる量 | 主に改善する特性 | 弱点 |
| P(比例) | 偏差そのもの | 両方をある程度 | ★定常偏差(オフセット)が残る |
| I(積分) | 偏差の積み重ね | ★定常特性 | 応答が遅れ、行き過ぎやすい |
| D(微分) | 偏差の変化の速さ | ★過渡特性 | ノイズに弱い/単独では使えない |
積分動作Iが定常特性を改善する理由は単純です。偏差が少しでも残っている限り、積分値は増え続ける——操作量が動き続けるので、偏差が0になるまで止まらないのです。
微分動作Dが過渡特性を改善する理由も同じく明快です。偏差が急に変化したとき、その「変化の速さ」に反応して大きな操作量を出す——変化が起きた瞬間に手を打てるので、応答が速くなり行き過ぎも抑えられます。
比例動作Pは偏差そのものに比例します。偏差が大きければ大きく動く——素直な動作なので、定常も過渡もある程度は改善できるのです。

なぜP動作だけでは偏差が残るのか
P動作の弱点が定常偏差(オフセット)です。これがI動作を必要とする理由——仕組みを理解しておきましょう。
たとえば部屋の温度を保つ場合を考えてみましょう。外に熱が逃げているので、目標温度を保つには常にある程度の加熱が必要です。
ところがP動作では、偏差が0 になると操作量も0——加熱を止めてしまうので温度が下がります。結局、ある程度の偏差が残ったところで釣り合う——これが定常偏差です。
| P動作のみ | PI動作 | |
| 偏差が0 のとき | 操作量も0 | ★積分値が残るので操作量は0 でない |
| 定常偏差 | 残る | ★0 にできる |
| 応答 | 速い | やや遅くなる |
I動作を加えれば、偏差が0 でも積分値が残る——だから操作量を出し続けられるのです。「必要な操作量を記憶している」と考えると分かりやすいでしょう。
比例ゲインを大きくすれば定常偏差は小さくできますが、大きくしすぎると振動して不安定になります——だからI動作で根本的に消すほうがよいのです。

D動作が単独で使われない理由
PID制御と言いますが、実際には PI か PID——D単独やID という組合せはありません。D動作には決定的な弱点があるからです。
| 問題 | 内容 | 対策 |
| 定常状態で効かない | 偏差が変化しなければ出力0 | P・I と併用する |
| ノイズに弱い | ★小さな雑音でも変化が速ければ大きく反応 | 不完全微分(フィルタ)を入れる |
| 目標値変更で暴れる | ステップ変化で操作量が跳ね上がる | 微分先行形にする |
微分は「変化の速さ」に反応するので、振幅が小さくても周波数の高いノイズには敏感——そのまま使うと操作量が暴れます。
だから実際の制御装置では、微分にフィルタをかけた「不完全微分」が使われます。目標値の変化には反応せず、測定値の変化にだけ反応させる「微分先行形」という工夫もあります。
プロセス制御の現場では、D を使わずPI だけで済ませることも多い——温度や流量のようにゆっくり変わる量では、Dの効果より副作用のほうが大きいからです。
ディジタル処理による制御——DDC
問題文の「ディジタル処理を介して行う方法」——DDC(Direct Digital Control)と呼ばれます。いまではほぼすべての制御装置がこの方式です。
| アナログ制御 | ディジタル制御(DDC) | |
| PID演算 | 抵抗とコンデンサの回路 | プログラムの計算 |
| パラメータ変更 | 部品の交換や調整 | ★数値を書き換えるだけ |
| 複雑な制御 | 回路が大きくなる | プログラムを書くだけ |
| ドリフト | 温度で特性が変わる | ★起きない |
ディジタルなら、比例ゲインも積分時間も数値を変えるだけ——現場で試行錯誤しながら調整できます。複数のループを1台で処理でき、記録も残せるのも大きな利点です。
⏱️ 本番での進め方
①「積分=定常、微分=過渡」——これだけで(ア)(イ)が決まる。
②(ウ)は残る「比例」。加算・減算は制御動作の名称ではない。
③ P単独では定常偏差が残る。I が必要な理由。
④ D は単独では使わない。ノイズに弱いから。
💡 覚え方
「I は最後まで詰める、D は先回りする」——積分は偏差が0 になるまで働き続け、微分は変化を先取りする。だからI が定常、D が過渡です。

PIDパラメータの調整
P・I・Dをどう組み合わせるかは、実際には現場で調整します。それぞれのパラメータを動かすと何が起きるかを整理しておきましょう。
| パラメータ | 大きくすると | 行き過ぎると |
| 比例ゲイン Kp | 応答が速く、定常偏差が小さくなる | ★振動して不安定になる |
| 積分時間 Ti(短くする) | 定常偏差が早く消える | 行き過ぎ(オーバシュート)が増える |
| 微分時間 Td | 行き過ぎを抑え、応答が安定する | ノイズで操作量が暴れる |
注意したいのが積分時間の向きです。「積分時間を短くする=積分動作を強める」——大きくすると弱くなるので、比例ゲインとは逆の感覚になります。
調整の順序は「P → I → D」が基本です。まずP だけで振動しない範囲までゲインを上げ、次にI で定常偏差を消し、最後にD で行き過ぎを抑える——ステップ応答を見ながら少しずつ動かします。
ワインドアップという落とし穴
I動作には、実務でよく問題になる副作用があります。積分ワインドアップ(リセットワインドアップ)です。
操作量には上限があります——バルブは全開以上には開かず、ヒータは定格以上には熱くならない。ところが積分値は、偏差がある限り増え続けます。
その結果、操作量が上限に張り付いているのに積分値だけが膨れ上がる——目標値に到達しても積分値が大きすぎて、大きく行き過ぎてしまうのです。
対策は、操作量が上限に達したら積分を止める(アンチワインドアップ)——現代の制御装置には標準で組み込まれている機能です。「積分は万能ではない」ということを示す好例だと言えます。
まとめ
| (ア) | 定常 |
| (イ) | 過渡 |
| (ウ) | 比例 |
| 答え | (2) |
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