今回は令和2年度 機械科目 A問題10を解説します。パワエレ26と同じテーマで、近年主に用いられるIGBTとパワーMOSFETを比較した記述の誤りを見つける問題です(設問文・選択肢はパワエレ26とは別内容)。
パワーMOSFETは電圧駆動形であり、多数キャリアを用いる素子で、少数キャリアの蓄積現象はありません。蓄積効果があるのはIGBTなどバイポーラ系デバイスです。
令和2年度 機械科目 A問題10:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和2年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題10
電験3種 機械科目 【パワーエレクトロニクス】 令和2年度 A問題10
パワー半導体スイッチングデバイスとしては近年,主にIGBTとパワーMOSFETが用いられている。両者を比較した記述として,誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1)IGBTは電圧駆動形であり,ゲート・エミッタ間の電圧によってオン・オフを制御する。
(2)パワーMOSFETは電流駆動形であり,キャリア蓄積効果があることからスイッチング損失が大きい。
(3)パワーMOSFETはユニポーラデバイスであり,バイポーラ形のデバイスと比べてオン状態の抵抗が高い。
(4)IGBTはバイポーラトランジスタにパワーMOSFETの特徴を組み合わせることにより,スイッチング特性を改善している。
(5)パワーMOSFETではシリコンのかわりにSiCを用いることで,高耐圧化をしつつオン状態の抵抗を低くすることが可能になる。
出題のポイント:MOSFETは電圧駆動でキャリア蓄積もない
(2)の記述には誤りが2つ含まれています。パワーMOSFETは電流駆動形ではなく電圧駆動形、そしてキャリア蓄積効果はない——どちらもIGBT側の性質と入れ替えた記述です。
| IGBT | パワーMOSFET | |
| 駆動方式 | 電圧駆動(ゲート・エミッタ間) | 電圧駆動(ゲート・ソース間) |
| キャリア | バイポーラ(電子と正孔) | ユニポーラ(電子のみ) |
| キャリア蓄積 | あり(テイル電流が出る) | ★なし |
| スイッチング損失 | 大きい | 小さい |
| オン抵抗 | 低い(伝導度変調) | 高い(耐圧が上がるほど急増) |
| 逆方向の電流 | 流れない(外付けダイオードが要る) | 流れる(ボディダイオード内蔵) |
MOSFETのゲートは絶縁されています。だから定常状態ではゲート電流がほとんど流れず、電圧をかけるだけで制御できる——これが電圧駆動です。
電流駆動なのはバイポーラトランジスタやGTOです。ベース(ゲート)に電流を流し続けなければオンを保てない——だから駆動回路が大がかりになります。
キャリア蓄積効果もMOSFETにはありません。電子だけで電流を運ぶユニポーラデバイスだからです——蓄積する少数キャリアがそもそも存在しないのです。

正しい4つの記述を確認する
(1) IGBTは電圧駆動形
IGBTの入力段はMOSFET構造ですから、ゲート・エミッタ間の電圧でオン・オフを制御します。MOSFETと同じ電圧駆動——この点で両者に違いはありません。
(1)と(2)を並べて読むと矛盾に気づけます。「IGBTは電圧駆動」「MOSFETは電流駆動」——入力段が同じMOS構造なのに駆動方式が違うのはおかしいのです。
(3) ユニポーラはオン抵抗が高い
バイポーラデバイスでは、少数キャリアが注入されて伝導度が上がります(伝導度変調)——だからオン電圧が低くなるのです。
ユニポーラのMOSFETにはその効果がないので、純粋に半導体層の抵抗がそのままオン抵抗になります——とくに高耐圧品では層を厚くする必要があり、抵抗が急増します。
(4) IGBTは両者の組合せ
バイポーラトランジスタの高耐圧・大電流という長所に、MOSFETの扱いやすいゲートを組み合わせたのがIGBTです。バイポーラ単体より格段にスイッチングしやすくなった——「スイッチング特性を改善している」という記述は正確です。
(5) SiCで高耐圧かつ低オン抵抗
SiC(炭化ケイ素)は絶縁破壊電界がシリコンの約10倍です。同じ耐圧なら半導体層を薄くできる——だから高耐圧でもオン抵抗を低く保てます。
従来「高耐圧のMOSFETはオン抵抗が大きすぎて使えない」とされてきました。SiCはその制約を大きく緩和する——MOSFETの適用範囲を高耐圧側へ広げつつある材料です。

駆動方式でデバイスを整理する
| 駆動方式 | デバイス | ゲート回路の特徴 |
| 電流駆動 | バイポーラトランジスタ、サイリスタ、GTO | 電流を流し続ける必要があり、回路が大がかり |
| 電圧駆動 | パワーMOSFET、IGBT | ゲート電流がほぼ0。回路が簡単で消費電力も小さい |
電圧駆動デバイスが普及した最大の理由が、この駆動回路の簡単さです。GTOでは主電流の1/3ほどの逆ゲート電流が必要でしたが、IGBTならゲート電圧を切るだけ——制御回路が桁違いに小さくなります。
「ゲートが絶縁されているか」が電圧駆動かどうかの分かれ目です。IGBT の I が Insulated(絶縁)——名前が駆動方式を教えてくれています。
⏱️ 本番での進め方
① MOSFETもIGBTも電圧駆動。電流駆動はバイポーラ・サイリスタ・GTO。
② キャリア蓄積はバイポーラ側の性質。MOSFETにはない。
③ (1)と(2)を並べると矛盾する。選択肢どうしの整合性を見る。
④ SiCは高耐圧化と低オン抵抗を両立。近年の頻出テーマ。
💡 覚え方
「IGBTのIはInsulated=絶縁ゲート=電圧駆動」——MOSFETも同じMOS構造なので電圧駆動。そして「蓄積するのはバイポーラだけ」——この2点で(2)の誤りが2か所とも見つかります。
関連問題:同じ比較が繰り返し出ている
IGBTとパワーMOSFETの比較は、令和5年度上期 A問題10でも出題されています(パワエレ26:IGBTとパワーMOSFETの特性比較)。そちらは「逆方向の電流」を誤りにしていた——誤りにされる箇所は毎回違います。
だからこそ、5つの比較項目すべてを正しく言えるようにしておくのが結局は近道です。駆動方式・キャリア・蓄積効果・オン抵抗・逆方向——この5点を表で押さえておきましょう。

伝導度変調とは何が起きているのか
(3)で問われた「オン抵抗の高さ」の背後には、伝導度変調という現象があります。バイポーラデバイスがオン電圧を低くできる理由です。
半導体の抵抗は、電流を運ぶキャリアの数で決まります。キャリアが多ければ抵抗が低い——単純な関係です。
バイポーラデバイスでは、オンにしたときに少数キャリア(正孔)が大量に注入されます。もともとある電子に加えて正孔も増えるので、キャリアの総数が桁違いに増える——これが伝導度変調です。
| ユニポーラ(MOSFET) | バイポーラ(IGBT) | |
| 電流を運ぶもの | 電子のみ | 電子+注入された正孔 |
| オン時の抵抗 | もとの半導体の抵抗のまま | キャリア増加により大幅に低下 |
| オフ時 | すぐ切れる | 注入した正孔が消えるまで時間がかかる(テイル電流) |
低いオン電圧と速いスイッチングは、両立しません。キャリアを注入すれば抵抗は下がるが、それを取り除くのに時間がかかる——これがバイポーラとユニポーラのトレードオフの正体です。
SiCが注目されているのは、もとの半導体の抵抗が十分低いので、伝導度変調に頼らなくてよいから。ユニポーラのまま低いオン抵抗が得られる——トレードオフそのものを回避できる材料なのです。
まとめ
| 誤りの記述 | (2) パワーMOSFETが電流駆動・蓄積効果ありとする記述 |
| 正しくは | 電圧駆動・蓄積効果なし |
| 答え | (2) |
▼あわせて解きたい関連問題
・IGBTとパワーMOSFETの特性比較(令和5年度上期):【機械】令和5年度上期A問題10
・パワー半導体デバイスの定常動作:【機械】令和5年度下期A問題10

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