「回転磁界」と「交番磁界」は、名前が似ているうえに、どちらも交流でつくる磁界です。誘導電動機の問題で何となく使い分けていても、「何が違うのか」と聞かれると答えにくい言葉ではないでしょうか。
この記事では、2つの磁界の違いを「向き」と「大きさ」の2点で整理し、三相交流で磁界が回る理由と、単相誘導電動機が自分では始動できない理由まで、一本の流れで説明します。
この記事でわかること
✓ 交番磁界と回転磁界の違い(向きと大きさ)
✓ 三相交流で磁界が回る理由
✓ 同期速度と、回転を逆にする方法
✓ 単相誘導電動機が自分では始動できない理由
よくあるつまずき:回転磁界を「磁石が回っている」というイメージだけで覚えていると、「交番磁界との違い」や「単相誘導電動機の始動」を問う論説問題で選択肢を絞れません。2つの磁界は「何が一定で、何が変わるか」で整理すると、違いがはっきりします。
ひとことで言うと:変わるのは「大きさ」か「向き」か
| 交番磁界 | 回転磁界 | |
|---|---|---|
| 向き | 一定(同じ軸の上を行ったり来たり) | 一定の速さで回転する |
| 大きさ | 正弦波で変化する(0 になる瞬間がある) | 一定 |
| つくり方 | 1つのコイルに単相交流を流す | 120°ずつずらした3つのコイルに三相交流を流す |
| 代表例 | 変圧器の鉄心、単相誘導電動機、誘導加熱 | 三相誘導電動機、同期機 |

交番磁界は「向きが決まっていて、大きさが脈打つ磁界」、回転磁界は「大きさが決まっていて、向きが回る磁界」です。この対比だけ押さえておけば、論説問題の多くは判断できます。
交番磁界:1つのコイルでは、磁界は脈打つだけ
1つのコイルに単相交流 \(i = I_m \cos\omega t\) を流すと、コイルの軸の方向に磁界ができます。磁界の大きさは電流に比例するので、
\[ B = B_m \cos\omega t \]
となり、正の最大 → 0 → 負の最大 → 0 → … と変化します。向きはコイルの軸から動かず、N極とS極が入れ替わるだけです。これが交番磁界です。
回転磁界:三相交流を流すと、合成した磁界が回る
3つのコイルを空間的に 120° ずつずらして置き、それぞれに 120° ずつ位相のずれた三相交流を流します。
\[ i_a = I_m\cos\omega t,\quad i_b = I_m\cos(\omega t – 120^\circ),\quad i_c = I_m\cos(\omega t – 240^\circ) \]

コイル1つずつを見れば、どれも交番磁界です。ところが、3つの磁界をベクトルとして足し合わせると、大きさが一定で、向きだけが回る磁界になります。いくつかの瞬間で確かめてみます(各コイルの磁界の最大値を 1 とします)。
| 瞬間 \(\omega t\) | a相 | b相 | c相 | 合成磁界の大きさ | 合成磁界の向き |
|---|---|---|---|---|---|
| 0° | 1 | −0.5 | −0.5 | 1.5 | 0°(a相の方向) |
| 90° | 0 | 0.866 | −0.866 | 1.5 | 90° |
| 120° | −0.5 | 1 | −0.5 | 1.5 | 120°(b相の方向) |

ベクトル図にすると、各相の磁界(色の矢印)は瞬間ごとに長さが変わっているのに、それらをつなげた合成磁界(薄い紺の矢印)の先端は、いつも同じ点線の円の上にあることが分かります。
どの瞬間でも合成磁界の大きさは 1.5 で変わらず、向きは \(\omega t\) と同じ角度だけ進んでいます。式で書くと、合成磁界は次のようになります。
\[ \dot{B} = \frac{3}{2} B_m\, e^{\,j\omega t} \]
大きさは各相の磁界の最大値の \(3/2\) 倍で一定、向きは角速度 \(\omega\) で回転します。これが回転磁界です。
確かめ方のコツ:表の3つの瞬間のうち1つでよいので、各相の磁界をベクトルとして自分で足してみてください。たとえば \(\omega t = 0^\circ\) なら、a相の 1 に、120° と 240° の方向を向いた b相・c相の −0.5 が加わります。b相・c相の縦の成分は打ち消し合い、横の成分が 0.25 ずつ足されて、合計 1.5 になります。手を動かすと「大きさが変わらない」ことを実感できます。
回転磁界の速さ:同期速度 Ns=120f/p
2極の場合、回転磁界は電源の1周期で1回転します。極数が \(p\) のときは、1周期で \(2/p\) 回転になるので、1分あたりの回転数(同期速度)は、
\[ N_s = \frac{120 f}{p}\ \ [\mathrm{min^{-1}}] \]
計算例:4極の電動機の場合、50 Hz なら \(N_s = 120 \times 50 / 4 = 1500\ \mathrm{min^{-1}}\)、60 Hz なら \(1800\ \mathrm{min^{-1}}\) です。三相誘導電動機は、この同期速度より少しだけ遅く回ります(その差の割合が「滑り」です)。
| 極数 | 50 Hz | 60 Hz |
|---|---|---|
| 2極 | 3000 min⁻¹ | 3600 min⁻¹ |
| 4極 | 1500 min⁻¹ | 1800 min⁻¹ |
| 6極 | 1000 min⁻¹ | 1200 min⁻¹ |
| 8極 | 750 min⁻¹ | 900 min⁻¹ |
表のとおり、極数が多いほど回転磁界はゆっくり回ります。計算問題では、極数と周波数から同期速度を出すところが出発点になるので、2極・4極の値はすぐ出せるようにしておくと便利です。
回転の向きを逆にするには:2相を入れ替える
回転磁界の向きは、相の順番(a→b→c)で決まります。電源の3本の線のうちどれか2本を入れ替えると相の順番が a→c→b になり、回転磁界が逆向きに回ります。三相誘導電動機を逆転させるときの方法です。
一方、3本すべてを順送りに入れ替えても(a→b、b→c、c→a)、相の順番は変わらないので、回転の向きも変わりません。論説問題でよく狙われるポイントです。

交番磁界は「逆向きに回る2つの回転磁界」に分けられる
交番磁界と回転磁界は、まったく別のものではありません。交番磁界は、大きさが半分で、互いに逆向きに回る2つの回転磁界の和として表せます。
\[ B_m\cos\omega t = \frac{B_m}{2}\, e^{\,j\omega t} + \frac{B_m}{2}\, e^{-j\omega t} \]

右回りの成分と左回りの成分が、同じ大きさでつり合っている状態です。2つが重なる瞬間には大きさが \(B_m\)、反対を向く瞬間には 0 になり、全体としては同じ軸の上で脈打つ交番磁界に見えます。
単相誘導電動機が、自分では始動できない理由
この分解を使うと、単相誘導電動機の性質がすっきり説明できます。
- 単相のコイルがつくるのは交番磁界。つまり、逆向きに回る2つの回転磁界が同じ大きさで存在する。
- 止まっている回転子には、2つの回転磁界から同じ大きさで逆向きのトルクがはたらく。
- トルクが打ち消し合うので、始動トルクは 0。自分では回り始めない。
- 手などで少しでも回してやると、回した向きの成分のトルクが勝ち、その向きに加速していく。
そこで単相誘導電動機は、主巻線とは位相のずれた電流を流す補助巻線や、くま取りコイルを使って、回転磁界に近い磁界をつくり、始動トルクを得ます。分相始動形、コンデンサ始動形、くま取りコイル形などが、その方法の違いです(コンデンサモータのように、運転中も補助巻線を使い続ける方式もあります)。

グラフで見ると、2つのトルクが打ち消し合うのは、回転速度が 0 のときだけだと分かります。少しでも回り始めると、回った向きの成分のトルクのほうが大きくなり、その向きに加速していきます。
よくある間違い
- 回転磁界の大きさを、各相と同じだと思う:三相の場合、合成した回転磁界の大きさは、各相の磁界の最大値の 1.5 倍です。
- 交番磁界も回っていると思う:交番磁界の向きは一定で、大きさが変わるだけです。回るのは、分解した2つの成分のほうです。
- 3本とも入れ替えれば逆転すると思う:逆転するのは2本を入れ替えたときです。3本を順送りに入れ替えても、回転の向きは変わりません。
- 単相誘導電動機は、回り始めてもトルクが出ないと思う:トルクが 0 なのは止まっているときだけです。いったん回り始めれば、その向きにトルクが生じます。
解くときのコツ:誘導機の問題は、「回転磁界を、回転子が少し遅れて追いかける」という1枚のイメージで、滑り・二次周波数・トルクがつながります。計算問題では、最初に同期速度 \(N_s = 120f/p\) を求めておくと、滑りの計算がスムーズに進みます。
過去問で確かめる
この記事の内容は、次の過去問で実際に問われています。
誘導機と同期機のほかの論点は、誘導機の頻出公式と論点まとめ、同期機の頻出公式と論点まとめにまとめています。
まとめ
- 交番磁界は「向きが一定で、大きさが脈打つ」。回転磁界は「大きさが一定で、向きが回る」。
- 120°ずつずらした3つのコイルに三相交流を流すと、合成磁界は各相の 1.5 倍の大きさで回転する。
- 回転の速さは同期速度 \(N_s = 120f/p\)。2本の線を入れ替えると逆転する。
- 交番磁界は、逆向きに回る半分の大きさの回転磁界2つに分けられる。
- そのため、単相誘導電動機は始動トルクが 0 で、始動のための工夫が必要になる。

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