今回は令和6年度下期 電力科目 A問題4を解説します。原子力発電について、燃料の濃縮度・放射線と放射能・核分裂・連鎖反応・減速材の5つの記述から誤っているものを選ぶ問題です。
ねらいは「高濃縮」という一語。軽水炉が使う2〜4%(3〜5%程度)のウランは低濃縮ウランと呼びます。高濃縮ウランは20%以上(兵器級は90%以上)を指す言葉で、発電用とはまったく別物です。
出題のポイント:原子力発電の基礎事項

放射線・連鎖反応・減速材の定義を確認し、ウラン235の割合2〜4%が低濃縮に分類されることから誤りを判定します。
令和6年度下期 電力科目 A問題4:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和6年度下期 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題4
電験3種 電力科目 【原子力】 令和6年度下期 A問題4
原子力発電に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
原子力発電所では、ウラン235を2〜4%まで濃縮した高濃縮ウランを使い、エネルギーを取り出している。
放射線にはα線、β線、γ線などがあり、放射線を出す能力を放射能といい、放射能を有する物質を放射性物質と呼ぶ。
原子燃料の原子核に、エネルギー値が低く速度の遅い中性子を衝突させると、核分裂を起こす。
原子燃料の核分裂により発生した1個以上の熱中性子が、別の原子核を分裂させる反応が連続的に持続する現象を連鎖反応という。
減速材は、核分裂によって新たに生じたエネルギー値が高い高速中性子のエネルギーの一部を吸収させて、低速の熱中性子を得るために用いる。
正しい4つの基礎事項

「2〜4 % まで濃縮した高濃縮ウラン」——数値と呼び名が矛盾しています。
| 濃縮度 | 呼び名 | 用途 |
| ★0.7 % | ★天然ウラン | ★重水炉・黒鉛炉ならそのまま使える |
| ★3〜5 % | ★低濃縮ウラン | ★軽水炉の燃料(発電用) |
| 20 % 未満 | 低濃縮ウラン | 研究炉など |
| ★20 % 以上 | ★高濃縮ウラン | ★発電には使わない |
| ★90 % 以上 | ★兵器級 | ★民生用ではあり得ない |
高濃縮ウランと呼ぶのは20 % 以上——2〜4 % は明らかに低濃縮です。
問題文の数値そのものは正しい——誤っているのは「高濃縮」という呼び名だけになります。
この形の引っかけは、数値を疑わせて呼び名を見落とさせる作り——2〜4 % が正しいか悩んでいると、罠にかかります。
「軽水炉=低濃縮ウラン」——この対応さえ覚えていれば即座に切れます。
(2) 放射線・放射能・放射性物質の区別
3つの言葉は、よく混同されます——懐中電灯にたとえると分かりやすいでしょう。
| 言葉 | 意味 | たとえ |
| ★放射線 | ★出てくるもの | ★光そのもの |
| ★放射能 | ★放射線を出す能力 | ★光を出す明るさ |
| ★放射性物質 | ★放射能を持つ物質 | ★懐中電灯そのもの |
「放射能が漏れた」という言い方は、厳密には誤り——漏れるのは放射性物質です。
3種類の放射線
| 種類 | 正体 | 遮へい |
| ★α線 | ★ヘリウムの原子核 | ★紙1枚で止まる |
| ★β線 | ★電子 | ★薄いアルミ板で止まる |
| ★γ線 | ★電磁波 | ★鉛や厚いコンクリートが要る |
粒子が大きいほど止めやすい——α線は重いので、すぐ止まります。
中性子線という4つ目もあります——水やコンクリートで減速させて止めることになります。
(3)(4)(5) 熱中性子と連鎖反応
核分裂を起こしやすいのは、遅い中性子です。
| 中性子 | 速さ | 核分裂の起こしやすさ |
| ★高速中性子 | ★核分裂直後(2 MeV 前後) | ★起こしにくい |
| ★熱中性子 | ★減速後(0.025 eV 前後) | ★起こしやすい |
エネルギーで約1億分の1まで落ちます——周りの原子と同じ熱運動の速さになるので「熱」中性子。
だから減速材で速度を落とす——(5)の記述はその説明です。
(4)の連鎖反応は「1個以上」が要点——ちょうど1個なら一定出力、それ以上なら出力上昇になります。
⚠️ よくある間違い
(1)の「2〜4 %」という数値を疑ってしまう——数値は正しいのです。誤りは「高濃縮」という呼び名。
(2)の「放射能」の定義を疑ってしまう——「放射線を出す能力」で正しい。
(3)の「速度の遅い中性子」を疑ってしまう——正しいのです。熱中性子のほうが核分裂を起こしやすい——直感に反しますが、そういうものです。
(5)の「エネルギーの一部を吸収させて」を疑ってしまう——減速材の働きの説明として正しい。中性子そのものを吸収するのではなく、エネルギーを奪うという意味です。
誤りは1か所、しかも呼び名だけ——言葉を丁寧に読む問題になっています。
⏱️ 本番での進め方
①★「2〜4 %」+「高濃縮」=矛盾。低濃縮が正しい。
②★高濃縮と呼ぶのは20 % 以上。
③放射線=出るもの/放射能=出す能力/放射性物質=持つ物質。
④★核分裂を起こしやすいのは遅い熱中性子。
💡 覚え方
「軽水炉は低濃縮ウラン」——数値が2〜4 % でも3〜5 % でも、呼び名は低濃縮です。20 % を超えて初めて高濃縮——発電では使いません。
同じ濃縮度の引っかけが令和5年度下期 A問題4(原子力:軽水炉の原子燃料)にあります。そちらは「90 % 程度の高濃縮ウラン」という形です。
誤りは(1):2〜4%は低濃縮

天然ウランは0.7 % しかウラン235を含みません——軽水炉ではそのままでは燃えません。
| 減速材 | 中性子の吸収 | 天然ウランで使えるか |
| ★軽水 | ★やや吸う | ★使えない(濃縮が要る) |
| ★重水 | ★ほとんど吸わない | ★使える |
| ★黒鉛 | ★ほとんど吸わない | ★使える |
軽水は減速の能力が最も高い——その代わり中性子を少し吸ってしまうのです。
吸われる分を補うため、燃料を濃くする——それが3〜5 % という値の由来になります。
重水炉や黒鉛炉なら天然ウランのままでよい——その代わり炉が大きくなります。
濃縮のしかた
ウラン235と238は化学的に同じ性質——質量の差だけで分けます。
六ふっ化ウランという気体にして、遠心分離機にかける——重い238が外側に寄るのです。
質量差はわずか1.3 %——だから何段も重ねる必要があります。
減速材の3つの条件
(5)は減速材の働きを説明しています——よい減速材の条件を整理しましょう。
| 条件 | 理由 | 優れた材料 |
| ★原子が軽い | ★1回の衝突で大きく減速できる | ★水素(軽水) |
| ★中性子を吸わない | ★吸われると連鎖反応が続かない | ★重水・黒鉛 |
| ★密度が高い | ★衝突する回数が増える | ★液体・固体 |
3つを同時に満たす材料はありません——だから選択が要るのです。
軽水は①と③に優れるが②で劣る——その弱点を濃縮で補います。
重水と黒鉛は②に優れるが①で劣る——だから炉が大きくなることになります。
なぜ軽い原子がよいのか
玉突きを思い浮かべてください——同じ重さの球に当たると、勢いをほぼ渡してしまいます。
重い球に当たれば、跳ね返るだけで速度は落ちません——壁に当たったボールと同じです。
水素の原子核は中性子とほぼ同じ重さ——だから最も効率よく減速できるのです。
要点をもう一度
本問は言葉の正確さを問う問題——数値ではなく呼び名が誤っています。
| 記述 | 正誤 | 決め手 |
| ★(1) | ★誤 | ★2〜4 % は低濃縮ウラン |
| (2) | 正 | 放射線・放射能・放射性物質の定義 |
| (3) | 正 | 熱中性子のほうが核分裂を起こしやすい |
| (4) | 正 | 連鎖反応の定義 |
| (5) | 正 | 減速材の働き |
「2〜4 %」という数値が具体的なので、正しく見えてしまう——そこに呼び名を紛れ込ませた作りです。
数値と呼び名を必ず照らし合わせる——それだけで防げます。
熱中性子と高速中性子の使い分け
(3)の「速度の遅い中性子」は、直感に反するかもしれません。
| ★熱中性子 | ★高速中性子 | |
| ★U235の核分裂 | ★起こしやすい | ★起こしにくい |
| ★U238の核分裂 | ★起こさない | ★ごくわずかに起こす |
| ★使う炉 | ★軽水炉など | ★高速増殖炉 |
速い中性子は、原子核のそばを一瞬で通り過ぎます——捕まる暇がないのです。
遅ければ、原子核の近くに長く留まる——そのぶん吸収されやすくなります。
だから減速材でわざわざ遅くする——効率よく連鎖反応を続けるためです。
核分裂で生まれた瞬間は高速中性子——減速材との衝突を数十回くり返して熱中性子になります。
まとめ
| (1)濃縮度 | 2〜4%は低濃縮ウラン(高濃縮ではない)→誤り |
| (2)用語 | 放射線・放射能・放射性物質の使い分け→正しい |
| (3)核分裂 | U235は速度の遅い熱中性子で分裂→正しい |
| (4)連鎖反応 | 中性子が次の分裂を連続的に起こす→正しい |
| (5)減速材 | 高速中性子を熱中性子に減速→正しい。答えは(1) |
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