今回は平成20年度 電力科目 A問題2を解説します。水力発電について、ベルヌーイの定理・発電所の特徴・歴史と役割・流況曲線・土木設備による分類の5つの記述から、誤っているものを選ぶ問題です。
ポイントは「水力発電の役割は失われている」という言い切りは誤りだという点。発電電力量の比率は小さくても、起動・停止が速い水力はピーク対応・調整力として今も重要な役割を担っています。
平成20年度 電力科目 A問題2:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成20年度 第三種電気主任技術者試験」電力科目 A問題2
電験3種 電力科目 【水力】 平成20年度 A問題2
水力発電に関する記述として、誤っているのは次のうちどれか。
水管を流れる水の物理的性質を示す式として知られるベルヌーイの定理は、力学的エネルギー保存の法則に基づく定理である。
水力発電所には、一般的に短時間で起動・停止ができる、耐用年数が長い、エネルギー変換効率が高いなどの特徴がある。
水力発電は昭和30年代前半までわが国の発電の主力であった。現在では、国産エネルギー活用の意義があるが、発電電力量の比率が小さいため、水力発電の電力供給面における役割は失われている。
河川の1日の流量を年間を通して流量の多いものから順番に配列して描いた流況曲線は、発電電力量の計画において重要な情報となる。
水力発電所は落差を得るための土木設備の構造により、水路式、ダム式、ダム水路式に分類される。

誤りは(3):水力の役割は失われていない
発電電力量の比率は8 % 前後と小さい——それでも役割は大きいのです。
| 役割 | 内容 |
| ★ピーク供給 | ★調整池式・貯水池式が昼のピークを担う |
| ★調整力 | ★数分で起動し、需給の変動を吸収する |
| ★周波数調整 | ★調速機の応答が速く、系統周波数を支える |
| ブラックスタート | ★大停電時に自力で起動できる |
| 国産エネルギー | 燃料の輸入が要らない |
電力量(kW·h)が小さくても、供給力(kW)としての価値は別——ここを取り違えているのが(3)の誤りです。
ピークの数時間だけ動かすなら、年間の電力量は小さくなります——けれども、その数時間に出せることが系統を支えているのです。
ブラックスタートは特に重要——火力は起動に外部電源が要るのに対し、水力は弁を開くだけで発電を始められるからです。
再生可能エネルギーが増えて役割はさらに大きくなった
本問は平成20年度の出題——その後、水力の重要性はむしろ高まっています。
| 従来 | 近年 | |
| 変動の要因 | 需要側だけ | ★需要+太陽光・風力の出力変動 |
| 調整の必要量 | 比較的小さい | ★大きい |
| 水力・揚水の役割 | ピーク供給 | ★変動の吸収・余剰電力の吸収 |
太陽光は日が陰れば数分で出力が落ちます——それを埋められるのは、応答の速い水力です。
逆に昼間に太陽光が余れば、揚水で汲み上げて貯める——捨てるはずだった電気を活かせることになります。
「比率が小さいから役割がない」という論法そのものが成り立たない——そう読めれば、この選択肢は選べます。
⚠️ よくある間違い
「発電電力量の比率が小さい」という部分に引きずられる——この事実自体は正しいのです。
誤りは、そこから「役割は失われている」と結論づけた点——前提が正しくても結論が誤っているという型です。
正誤問題では、こうした「もっともらしい推論」に注意——事実の部分ではなく、評価や結論の部分を疑うとよいでしょう。
他の4つは、ベルヌーイ・水力の特徴・流況曲線・落差による分類——いずれも繰り返し出題される定番です。令和4年度下期にもほぼ同じ選択肢が出ています。
⏱️ 本番での進め方
①★比率が小さくても役割は失われていない。
②電力量[kW·h]と供給力[kW]は別の価値。
③★水力はピーク供給・調整力・ブラックスタートを担う。
④★「〜ため、〜は失われている」という評価の部分を疑う。
💡 覚え方
「量は少なくても、出したいときに出せる」——それが水力の価値です。再エネが増えた今、調整力としての役割はさらに大きくなっています。
ほぼ同じ選択肢の問題が令和4年度下期 A問題1(水力:発電電力量比率と流況曲線)にあります。そちらは数字の20 % が誤りでした。
水力発電が持つ性能の特徴
(2)に挙げられた3つの特徴を、数字で確認しましょう。
| 特徴 | 水力 | 汽力(火力) |
| ★起動時間 | ★数分 | ★数十分〜数時間 |
| ★耐用年数 | ★水車・発電機で40年以上、土木設備は数十年〜 | 20〜30年程度 |
| ★総合効率 | ★80 % 以上 | 40〜60 % |
効率が高いのは、熱を経由しないから——火力は熱機関なのでカルノー効率という上限に縛られます。
水力は位置エネルギーを直接、回転運動に変える——原理的な制約が小さいのです。
(5) 落差を得るための土木設備による分類
| 方式 | 落差の作り方 |
| ★水路式 | ★長い導水路で川の勾配を落差に変える |
| ★ダム式 | ★ダムで水位を持ち上げる |
| ★ダム水路式 | ★両方を併用する |
問題文が「土木設備の構造により」と断っている——流込み式・調整池式・貯水池式は別の軸(流量の使い方)だからです。
2つの軸を混ぜないように書かれている——丁寧な記述だと言えます。
正誤判定の進め方
5つの記述のうち、4つは事実の記述——1つだけが評価を含んでいます。
| 記述 | 内容 | 判定 |
| (1) | ベルヌーイはエネルギー保存 | 正しい |
| (2) | 起動が速い・寿命が長い・効率が高い | 正しい |
| ★(3) | ★役割は失われている | ★誤り |
| (4) | 流況曲線は発電計画に重要 | 正しい |
| (5) | 水路式・ダム式・ダム水路式 | 正しい |
(1)(2)(4)(5)は、定義や分類をそのまま述べたもの——疑う余地がありません。
(3)だけが「〜ため、〜は失われている」という論証の形——ここに誤りが仕込まれていると読めます。
同じテーマの令和4年度下期との違い
| ★平成20年度(本問) | 令和4年度下期 | |
| 誤りの箇所 | ★「役割は失われている」 | ★「比率は20 % 程度」 |
| 誤りの型 | ★評価が誤り | ★数値が誤り |
同じ選択肢の並びでも、どこを誤りにするかが違う——2問セットで確認しておくと確実です。
いずれも「水力の比率が小さい」という事実が土台——その事実をどう歪めるかで問題が作られていることになります。
水力が担う調整力の中身
「役割は失われていない」根拠を、具体的に見ておきましょう。
| 調整の種類 | 応答の速さ | 担い手 |
| ★ガバナフリー | ★数秒〜十数秒 | ★調速機が自動で応答 |
| ★負荷周波数制御(LFC) | ★数分 | ★中央給電指令所からの指令 |
| 経済負荷配分(EDC) | 十数分 | 燃料費が安い順に配分 |
水力は、このうち速い2つで力を発揮します——弁を開けばすぐ出力が上がるからです。
火力は燃料を燃やして蒸気を作る必要がある——どうしても時間がかかることになります。
kW価値と kW·h価値
| 価値 | 意味 | 水力の評価 |
| ★kW·h価値 | ★どれだけ電力量を作ったか | ★比率8 % と小さい |
| ★kW価値 | ★必要なときに出せる能力 | ★高い |
| ΔkW価値 | 変動に応じて調整できる能力 | ★高い |
近年は、この3つの価値を分けて取引する仕組みが整えられています——容量市場や需給調整市場と呼ばれるものです。
電力量だけで発電所を評価する時代ではない——本問の(3)は、まさにその古い見方の誤りを突いていることになります。
ブラックスタートという最後の砦
大規模停電から復旧するとき、最初に動く発電所が要ります——それがブラックスタート電源です。
火力発電所は、起動するのに電気が要ります——ポンプもファンも電動機で動くからです。停電していては自力で立ち上がれません。
水力なら、水門を開けば水が落ちてくる——外部電源がなくても発電を始められるのです。
その電気を使って火力を起動し、少しずつ系統を広げていく——水力が果たすこの役割は、比率の大小とはまったく別の話だと言えます。
まとめ
| (1)ベルヌーイ | 力学的エネルギー保存に基づく→正しい |
| (2)水力の特徴 | 起動停止が速い・耐用年数が長い・効率が高い→正しい |
| (3)役割 | 比率は小さくてもピーク供給・調整力として重要→誤り |
| (4)流況曲線 | 日流量を多い順に並べる。計画に重要→正しい |
| (5)分類 | 土木設備で水路式・ダム式・ダム水路式→正しい |
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