はじめに:三相巻線形誘導電動機の構造を理解する
今回は、電験3種 機械科目 令和4年度上期 問3で出題された「三相巻線形誘導電動機の構造」に関する問題を取り上げ、その解答の導出から周辺知識までを徹底的に解説します。この1問を通して、誘導電動機の基本的な構造と動作原理をマスターしましょう。

【問題文】電験3種 機械 令和4年度上期 問3

次の文章は、三相巻線形誘導電動機の構造に関する記述である。
三相巻線形誘導電動機は、(ア)を作る固定子と回転する部分の巻線形回転子で構成される。固定子は、(イ)を円形又は扇形にスロットとともに打ち抜いて、必要な枚数積み重ねて積層鉄心を構成し、その内側に設けられたスロットに巻線を納め、結線して三相巻線とすることにより作られる。一方、巻線形回転子は、積層鉄心を構成し、その外側に設けられたスロットに巻線を納め、結線して三相巻線とすることにより作られる。始動時には高い電圧にさらされることや、大きな電流流れることがあるので、回転子の巻線には、耐熱性や絶縁性に優れた絶縁電線が用いられる。一般的に、小出力用できのでは、ホルマール線や(ウ)などの丸線が、大出力用では、(エ)の平角銅線が用いられる。
三相巻線は、軸上に絶縁して設けた3個のスリップリングに接続し、ブラシを通して外部(静止部)の端子に接続されている。この端子に可変抵抗器を接続することにより、(オ)を改善したり、速度制御をすることができる。
| (番号) | (ア) | (イ) | (ウ) | (エ) | (オ) |
|---|---|---|---|---|---|
| (1) | 回転磁界 | 高張力鋼板 | ビニル線 | エナメル線 | 効率 |
| (2) | 回転磁界 | 電磁鋼板 | ビニル線 | エナメル線 | 始動特性 |
| (3) | 電磁力 | 電磁鋼板 | ビニル線 | エナメル線 | 効率 |
| (4) | 電磁力 | 高張力鋼板 | ポリエステル線 | ガラス巻線 | 効率 |
| (5) | 回転磁界 | 電磁鋼板 | ポリエステル線 | ガラス巻線 | 始動特性 |
解法の3つのステップ:誘導電動機の構造を分解して理解する
この問題は、一見すると覚えることが多いように感じますが、実は大きく3つのテーマに分解して考えることができます。それぞれのテーマごとに知識を整理することで、確実に正解にたどり着くことができます。

3つのテーマは以下の通りです。
- 【テーマ1】固定子(ステータ)の役割と材料 → 空欄(ア)(イ)がターゲット。モータが回る根本的な原理と、鉄損を減らすための素材選びがポイントです。
- 【テーマ2】回転子(ロータ)巻線の絶縁材料 → 空欄(ウ)(エ)がターゲット。モータの出力規模に応じた、最適な電線形状と絶縁素材の使い分けがポイントです。
- 【テーマ3】巻線形特有の構造と外部制御 → 空欄(オ)がターゲット。スリップリング機構の目的と、外部抵抗による特性の変化がポイントです。
STEP1:固定子が作る「回転磁界」と鉄心材料「電磁鋼板」
空欄(ア)の解説:なぜ固定子は「回転磁界」を作るのか?
誘導電動機の最も基本的な原理は、固定子が作る「回転磁界」によって回転子が回ることです。固定子の三相巻線に三相交流を流すと、時間とともに向きが変化する磁界が合成され、あたかも磁石が空間を回転しているかのような状態が生まれます。これが回転磁界であり、回転子を動かす原動力となります。
「電磁力」は磁界と電流によって生じる力そのものを指す言葉であり、固定子が直接「作る」ものではないため、(ア)には「回転磁界」が入ります。

空欄(イ)の解説:なぜ鉄心には「電磁鋼板」が使われるのか?
固定子や回転子の鉄心には、磁気的な特性に優れ、かつエネルギー損失が少ない材料が求められます。交流磁界が鉄心を通過する際には、「ヒステリシス損」と「渦電流損」という2つの鉄損が発生します。
この損失を最小限に抑えるために、電気抵抗が高く、ヒステリシスループ面積が小さい「電磁鋼板(けい素鋼板)」が使用されます。さらに、渦電流損を低減するために、薄い電磁鋼板を何枚も重ね合わせた「積層鉄心」構造が採用されています。
「高張力鋼板」は主に建築などの構造用材料であり、磁気回路には適しません。したがって、(イ)の正解は「電磁鋼板」です。
STEP2:回転子巻線の絶縁材料「ポリエステル線」と「ガラス巻線」
回転子の巻線は、始動時に高い電圧にさらされ、大きな電流が流れる過酷な状況に置かれます。そのため、使用される電線には高い耐熱性と絶縁性が不可欠です。問題文では、出力規模によって使われる電線が異なると述べられています。

空欄(ウ)の解説:小出力用の丸線にはポリエステル線を使用
小出力用の誘導電動機では、問題文にあるホルマール線と同様に、一般的に「ポリエステル線」などのエナメル線(丸線)が使用されます。ポリエステル線は耐熱性と絶縁性のバランスが良く、小型モータに広く採用されています。
一方、「ビニル線」は耐熱性が低く、主に屋内の配線などに使われるため、モーター内部の高温環境には適しません。したがって、(ウ)の正解は「ポリエステル線」です。
空欄(エ)の解説:大出力用の平角銅線にはガラス巻線を使用
大出力用の誘導電動機では、大電流が流れるため、導体の断面積を大きくする必要があります。スペース効率と冷却効率を高めるために「平角銅線」が用いられ、その絶縁被覆には機械的強度と耐熱性に優れた「ガラス巻線」が採用されます。
「エナメル線」は主に丸線であり、大出力用の平角線の絶縁としてはガラス巻線ほどの機械的・熱的強度がありません。したがって、(エ)の正解は「ガラス巻線」です。
STEP3:巻線形誘導電動機のスリップリングと始動特性の改善
スリップリングとブラシの役割とは?
巻線形誘導電動機の最大の特徴が、この「スリップリング」と「ブラシ」の存在です。これらは、回転している回転子(二次回路)と、静止している外部の制御装置(可変抵抗器)とを電気的に接続するための「架け橋」の役割を果たします。

上の図のように、回転子の三相巻線は軸上に固定された3個のスリップリングに接続されています。スリップリングは回転子と一緒に回る導電リングで、ブラシはそのリングに押し当てられた静止した接点です。この機構により、回転するモータ内部の回路を、静止している外部の世界に引き出すことができます。
空欄(オ)の解説:外部抵抗で「始動特性」を改善する仕組み
スリップリングを通して二次回路に外部抵抗を接続することで、誘導電動機の特性を変化させることができます。特に重要なのが「始動特性の改善」です。

始動時に外部抵抗の値を大きくすると、比例推移の原理によって最大トルクを発生する滑りが大きくなります。これにより、始動電流を抑えながら大きな始動トルクを得ることが可能になります。これが(オ)の答えが「始動特性」である理由です。
ここで注意すべきは、なぜ「効率」ではないのかという点です。二次回路に抵抗を挿入すると、その抵抗でジュール熱(二次銅損)が発生します。これはエネルギーの損失に他ならず、抵抗を大きくするほど運転中の効率はむしろ低下してしまいます。したがって、外部抵抗の目的は効率改善ではなく、始動特性の改善です。
解答のまとめと正解の導出
これまでの解説をまとめると、各空欄に当てはまる語句は以下の通りです。

| 空欄 | 正解 | 理由 |
|---|---|---|
| (ア) | 回転磁界 | 固定子の三相巻線に三相交流を流すことで発生する |
| (イ) | 電磁鋼板 | 鉄損(渦電流損・ヒステリシス損)を抑えるため |
| (ウ) | ポリエステル線 | 小出力用の丸線として耐熱性・絶縁性に優れる |
| (エ) | ガラス巻線 | 大出力用の平角銅線として機械的・熱的強度が高い |
| (オ) | 始動特性 | 外部抵抗により始動電流を抑え始動トルクを増大 |
これらの条件をすべて満たす選択肢は(5)です。
試験直前チェック!巻線形誘導電動機の重要ポイント
最後に、巻線形誘導電動機に関する重要ポイントを一覧で確認しておきましょう。試験直前の見直しに活用してください。

固定子(ステータ)のポイント
- 鉄損を抑える「電磁鋼板」の積層鉄心を採用
- 三相交流を流し、モータの原動力となる「回転磁界」を発生させる
回転子(ロータ)のポイント
- 始動時の過酷な環境に耐える絶縁材が必須
- 小出力用:ポリエステル線(丸線)
- 大出力用:ガラス巻線(平角銅線)
スリップリングと外部制御のポイント
- 回転部と静止部を繋ぐ要の機構(ブラシとセット)
- 比例推移を利用し、二次抵抗を増やすことで「始動特性(トルク)」を改善
- 注意:抵抗による熱損失(銅損)が増えるため、効率は低下する
まとめ:三相巻線形誘導電動機の構造を確実に理解しよう
本記事では、電験3種 機械 令和4年度上期 問3を通して、三相巻線形誘導電動機の構造と原理について解説しました。固定子が作る「回転磁界」、鉄損を抑える「電磁鋼板」、出力に応じた「絶縁材料」、そして始動特性を改善する「スリップリングと外部抵抗」といった各要素の役割を正しく理解することが重要です。一つ一つの知識を確実に積み重ねて、合格を目指しましょう。
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