スライド1:誘導機は「実務と理論の架け橋」

今回のテーマは「誘導機(インダクションモーター)」です 。 この問題は、単なる計算問題ではありません。エアコンや電気自動車など、現代社会で広く使われている「インバータ制御」の基礎を学ぶための良問です。実務にも直結する知識なので、しっかりとマスターしましょう。
スライド2:問題設定の確認とデータの抽出

まずは、問題文から必要な情報を整理します 。
- 対象: 三相誘導電動機
- 定格出力: $15 \mathrm{kW}$
- 極数: $4$極
- 定格周波数: $60 \mathrm{Hz}$
- 運転状況: 定格回転速度 $1746 \mathrm{min}^{-1}$ で運転中
- 負荷: トルク一定
- 【超重要条件】: 「滑り周波数は一次周波数にかかわらず常に一定とする」
この「滑り周波数一定」という条件が、この問題を解くための最大のカギとなります。
スライド3:同期速度と回転速度の「追いかけっこ」

計算に入る前に、誘導機の仕組みをイメージしましょう。「アラゴーの円盤」をご存知でしょうか?
- 同期速度 ($N_s$): 磁石(回転磁界)が逃げるスピード。「逃げる兄」です 。
- 回転速度 ($N$): 円盤(回転子)が追いかけるスピード。「追う弟」です 。
- 滑り ($s$): どうしても追いつけない「遅れ」のこと 。
この「遅れ」があるからこそ、引っ張られる力(トルク)が生まれます。もし完全に追いついてしまったら($N=N_s$)、力はゼロになってしまいます 。
スライド4:これだけは暗記!3つの重要公式

この問題を解くために必要な「武器」は以下の3つの公式です 。
- 同期速度: $$N_s = \frac{120 f}{p}$$($f$: 周波数、$p$: 極数)
- 滑り: $$s = \frac{N_s – N}{N_s}$$(速度のロス率)
- 滑り周波数: $$f_2 = s \times f_1$$(回転子の中に流れる電気の周波数。これが力の源泉です )
スライド5:(a) 基準状態(60Hz)の解析 Step 1

まずは設問(a)に取り掛かります。基準となる $60 \mathrm{Hz}$ での「同期速度(逃げる兄の速度)」を求めましょう 。
$$N_s = \frac{120 \times 60}{4} = 1800 \mathrm{min}^{-1}$$
このモーターは、理論上は1分間に1800回転しようとしています。
スライド6:(a) 基準状態(60Hz)の解析 Step 2

次に、実際の回転速度との差から「滑り(遅れ率)」を計算します 。
- 同期速度 $N_s = 1800$
- 実際の速度 $N = 1746$
$$s = \frac{1800 – 1746}{1800} = \frac{54}{1800} = 0.03$$
同期速度に対して 3% ($0.03$) の速度ロスが発生していることがわかります 。
スライド7:(a) 基準状態(60Hz)の解析 Step 3 (解答)

ここで、設問(a)で問われている「滑り周波数 $f_2$」を求めます 。
$$f_2 = s \times f_1$$
$$f_2 = 0.03 \times 60 = 1.80 \mathrm{Hz}$$
正解は (2) 1.80 です。 この「1.80 Hz」という値は、次の設問(b)でも変化しないという点をしっかり覚えておいてください 。
スライド8:(b) インバータ制御による変化 (40Hzへ)

ここから設問(b)です。インバータを使って周波数を $40 \mathrm{Hz}$ に落としました(減速運転) 。
問題文に「滑り周波数は常に一定」とあるので、$40 \mathrm{Hz}$ になっても $f_2 = 1.80 \mathrm{Hz}$ を維持しなければなりません 。これが技術的な「定トルク運転」の条件になります。
スライド9:(b) 40Hz時の解析 Step 1

周波数が変われば、同期速度も変わります。新しい同期速度 $N_s’$ を求めましょう 。
$$N_s’ = \frac{120 \times 40}{4} = 1200 \mathrm{min}^{-1}$$
$60 \mathrm{Hz}$ のときは $1800$ でしたが、$40 \mathrm{Hz}$ になったので $1200$ まで下がりました(33%ダウン) 。
スライド10:(b) 40Hz時の解析 Step 2

ここが最大のひっかけポイントであり、理解のしどころです 。 「滑り周波数 $f_2$」は一定ですが、「滑り $s$ (%)」は変化します 。
新しい滑り $s’$ を逆算します。
$$s’ = \frac{f_2}{f_1′} = \frac{1.80}{40}$$
$$s’ = 0.045 \quad (4.5\%)$$
分母の周波数($f_1$)が小さくなったため、同じ $1.80 \mathrm{Hz}$ を維持するには、滑りの比率は 3.0% から 4.5% に増加するのです。
スライド11:(b) 40Hz時の解析 Step 3 (解答)

最後に、実際の回転速度 $N’$ を求めます 。
$$N’ = N_s’ (1 – s’)$$
$$N’ = 1200 \times (1 – 0.045) = 1200 \times 0.955 = 1146 \mathrm{min}^{-1}$$
正解は (1) 1146 です。
【プロの解法テクニック】 実はもっと直感的な解き方があります。 「滑り周波数が一定」とは、**「回転数の遅れ(rpm)が一定」**という意味とほぼ同じです。
- $60 \mathrm{Hz}$ の時の遅れ:$1800 – 1746 = 54 \mathrm{min}^{-1}$ * $40 \mathrm{Hz}$ でも遅れは同じ:$1200 – 54 = 1146 \mathrm{min}^{-1}$
これなら計算ミスも防げますね!
スライド12:実務への応用 V/f一定制御

なぜ「滑り周波数一定」という条件が付くのでしょうか? インバータ制御(V/f一定制御)では、トルクは滑り周波数 $f_2$ に比例するという特性があります 。 つまり、問題文の「トルク一定の負荷」という言葉は、数学的には「滑り周波数 $f_2$ が一定のままで計算しなさい」というメッセージだったのです 。
スライド13:まとめ 勝利の方程式

今回のポイントを整理しましょう 。
- 同期速度: $N_s$ は周波数で決まる(インバータの設定値) 。
- 滑り: $s$ は速度のロス率 。
- 滑り周波数: $f_2 = s \times f_1$ がトルクの源 。
アドバイス: 「滑り周波数一定」ならば、周波数が下がると滑り $s$ は増える。この理屈を知っていれば、計算結果の妥当性を確認できます 。
スライド14:公式の向こう側にある「機械」を見る

電験3種の問題は、単なる数字遊びではありません 。 「インバータで速度を落としたんだな」「あ、少し遅れ(滑り)が大きくなったな」と、公式の向こう側にある機械の動きを想像しながら計算してみてください 。それが合格への近道です。

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