電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「VVVFインバータによる交流電動機の駆動」は誘導機とパワーエレクトロニクスの境界に位置する重要テーマです。本記事では、平成20年度 A問題10を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
前半は「なぜV/f一定か(磁気飽和防止)」、後半は「V/f一定を実現する2つの回路方式(サイリスタ整流器方式とPWMインバータ方式)」。この2段構えで4空欄が全部埋まります。
平成20年度 機械科目 A問題10:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成20年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題10
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成20年度 A問題10(要約)
交流電動機の駆動では、鉄心の(ア)を防ぎトルクを有効に発生させるため、交流基本波の電圧と周波数の比をほぼ(イ)にする。実現方法は2つ:①整流器に(ウ)などを使用して直流電圧を可変制御し、インバータで周波数を調整する方法。②整流器でほぼ一定の直流電圧を得て、インバータの出力パルス波形制御で電圧と周波数を同時に調整する方法。一定の直流電圧から可変の交流電圧を得るインバータの代表的な制御が(エ)制御である。
(1) 磁気飽和・一定・ダイオード・PWM (2) 振動・2乗・ダイオード・PLL (3) 磁気飽和・2乗・サイリスタ・PLL (4) 振動・一定・サイリスタ・PLL (5) 磁気飽和・一定・サイリスタ・PWM
出題のポイント:2つの方式は「どこで電圧を作るか」が違う
問題文は V/f 一定を実現する回路方式を2つ挙げています。違いは一点——電圧を可変にする場所です。
| 方式①(サイリスタ整流器方式) | 方式②(PWM インバータ方式) | |
| 電圧を作る場所 | 整流器(上流) | インバータ(下流) |
| 整流器 | サイリスタ(位相制御で電圧可変) | ダイオード(一定の直流でよい) |
| インバータの役割 | 周波数だけ調整 | 電圧と周波数を同時に調整 |
| 空欄 | (ウ)=サイリスタ | (エ)=PWM |
| 現在の主流 | — | こちら(高調波・力率で有利) |

空欄を確定する
(ア)(イ):磁気飽和を防ぐために V/f を一定に
(ア)=磁気飽和、(イ)=一定。「振動」や「2乗」には物理的な根拠がありません——この2つで(2)(3)(4)が消えます。
(ウ):電圧を可変にできるのはサイリスタ
方式①は整流器の出力直流電圧そのものを可変にする方式です。点弧角(位相)を制御して出力電圧を変えられるのはサイリスタ——ダイオードは整流するだけで制御できません。(ウ)=サイリスタで(1)も消えて(5)に確定します。
(エ):一定の直流から可変の交流を作るのは PWM
方式②は直流電圧が一定なので、インバータ側でパルスの幅を変えて実効電圧を調整します。(エ)=PWM(パルス幅変調)。
☝️ ひっかけの作り方:PLL(位相同期ループ)は電圧を作る技術ではありません。基準の位相・周波数に同期させるための回路で、通信や系統連系で使われます。「インバータの電圧制御」と問われたら PWM 一択です。


半導体素子の「できること」の序列
(ウ)の判定は、素子ごとに何ができるかを知っていれば一瞬です。この序列はパワーエレクトロニクスの分野でも繰り返し問われます。
| 素子 | オンにできるか | オフにできるか | できること |
| ダイオード | ×(電圧で勝手に) | × | 整流だけ |
| サイリスタ | ○(ゲートで点弧) | ×(電流がゼロになるまで) | 位相制御で電圧可変 |
| GTO・IGBT・MOSFET | ○ | ○(自己消弧) | 高速スイッチング=PWM |
「オフにできるか」が決定的な分かれ目です。サイリスタは一度オンにすると電流がゼロになるまで切れないので、交流の波形が自然にゼロを通る整流回路では使えても、任意のタイミングで切りたい PWM には使えません。
だから PWM インバータには IGBT のような自己消弧素子が要るのです。方式②が実用化されたのは、こうした素子が安く手に入るようになってから——方式①が先に普及したのは、サイリスタのほうが早く安価になったからという歴史的な事情があります。
PWM はどうやって電圧を作るのか
「パルス幅変調」という名前のとおり、パルスの幅を変えることで平均電圧を変えます。電圧の高さは直流電圧のまま固定なので、幅だけで調整するわけです。
| パルスの幅 | 1周期に占める割合 | 平均電圧 | 電動機から見ると |
| 広い | 80 % | 直流電圧の80 % | 高い電圧が加わっている |
| 中くらい | 50 % | 直流電圧の50 % | 中くらい |
| 狭い | 20 % | 直流電圧の20 % | 低い電圧が加わっている |
実際には、正弦波状に幅を変化させます。三角波(搬送波)と正弦波(信号波)を比較して、正弦波のほうが大きいときだけオンにする——すると、パルスの幅が正弦波に沿って変化します。
電動機のインダクタンスが平滑化してくれるので、電流は滑らかな正弦波に近づきます。電圧はパルスの列でも、電流は正弦波——これが PWM が成立する理由です。
三角波の周波数(搬送波周波数)を高くするほど波形はきれいになりますが、スイッチング回数が増えて損失も増えます。実機では数kHz〜十数kHz——インバータ駆動の電動機から高い音がするのは、この周波数で振動しているからです。
⏱️ 本番での進め方
① (ア)(イ)だけで3肢が消える——磁気飽和・一定。「振動」「2乗」は根拠がない。
② ダイオードは電圧制御ができない——(ウ)はサイリスタ。
③ 「どこで電圧を作るか」で2方式を区別:上流ならサイリスタ、下流なら PWM。
④ PLL は電圧を作る技術ではない。位相を合わせる回路。
インバータ装置は3つのブロックでできている
問題文が「整流器」と「インバータ」を分けて書いているとおり、実際の装置は複数のブロックの組み合わせです。全体像を持っておくと、方式の違いが見通せます。
| ブロック | 役割 | 方式①では | 方式②では |
| ① 整流器(コンバータ) | 交流 → 直流 | サイリスタ(電圧可変) | ダイオード(電圧一定) |
| ② 平滑回路 | 脈動をならす | リアクトル中心 | 大容量コンデンサ |
| ③ インバータ | 直流 → 可変周波数の交流 | 周波数だけ調整 | PWM で電圧と周波数を同時に |
方式②は整流器が単純なダイオードで済むのが大きな利点です。安く、しかも電源側の力率が良い(サイリスタの位相制御は力率を悪化させます)——現在の主流が方式②である理由がここにあります。
回生のときは、もう一工夫が要る
方式②には弱点もあります。ダイオード整流器は電流を一方向にしか流せないので、電動機側から電力が返ってきたときに、電源へ戻せません。
| 場面 | 電力の向き | ダイオード整流器では | 対策 |
| 力行(加速・定常) | 電源 → 電動機 | 問題なし | — |
| 回生(減速・降下) | 電動機 → 電源 | 戻せず、直流電圧が上昇して停止する | ブレーキチョッパ+抵抗/回生コンバータ |
減速すると、電動機は発電機になって電力を送り返してきます。行き場のない電力は平滑コンデンサに溜まり、直流電圧が上がって保護が働きます——「過電圧トリップ」と呼ばれる現象です。
対策は2つ。ブレーキチョッパで抵抗に流して熱にする(安いが電力は捨てる)か、回生コンバータで電源へ返す(高いが省エネ)か——用途と回生の頻度で選びます。電車のように減速が頻繁な用途では、当然のように回生が使われています。
ちなみに方式①のサイリスタ整流器は、位相を進めれば電力を逆に流せます(サイリスタレオナード方式と同じ原理)。方式②が主流になった今でも、回生が必要な大容量用途ではサイリスタが使われる——「古い方式が完全に消えるわけではない」という良い例です。
💡 覚え方
「φ∝V/f——飽和防止で V/f 一定。電圧は上流ならサイリスタ、下流なら PWM」。素子の序列は「オフにできるか」で決まる——ダイオード(整流のみ)<サイリスタ(位相制御)<IGBT 等(自己消弧=PWM)。PWM は三角波と正弦波の比較でパルス幅を作り、電動機のインダクタンスが電流を平滑化する。
⚠️ よくある間違い
(ウ)にダイオードを選ぶのが典型です。ダイオードは整流するだけで、出力電圧を変えられません。もう一つは(エ)に PLL——PLL は位相・周波数を同期させる技術で、電圧を作る制御ではありません。略語の意味を展開して確かめるのが確実です。

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