電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「誘導機の速度制御」はVVVF・極数切換・電圧制御・二次抵抗制御を一望する総まとめテーマです。本記事では、令和5年度下期 A問題3を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
出発点は速度の式 n=120(1−s)f/p。f を変える(VVVF)、p を変える(極数切換)、s を変える(一次電圧・二次抵抗)——制御法は式の3変数に対応しています。
令和5年度下期 機械科目 A問題3:問題文と選択肢
略語を展開するところから始めれば、迷う空欄が減ります。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「令和5年度下期 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3
電験3種 機械科目 【誘導機】 令和5年度下期 A問題3(要約)
誘導機の回転速度は n=120・(ア)と表される。かご形では(イ)電源装置を用いた周波数制御が広く利用される。この他に、固定子巻線の接続を変更して(ウ)を切り換える制御法(効率はよいが段階的)や、(エ)の大きさを変更する制御法(安定な制御範囲を広くするために(オ)を大きくとり銅損が大きくなる)がある。巻線形では(オ)の調整によりトルクの比例推移を利用して速度を変える。
(1) sf/p・CVCF・相数・一次電圧・一次抵抗 (2) (1−s)f/p・CVCF・極数・二次電圧・二次抵抗 (3) sf/p・VVVF・極数・一次電圧・一次抵抗 (4) (1−s)f/p・VVVF・相数・二次電圧・一次抵抗 (5) (1−s)f/p・VVVF・極数・一次電圧・二次抵抗
本問は令和元年度 A問題4(誘導機57)とほぼ同一の再出題です。速度の式1本で完答できる定番中の定番です。
出題のポイント:略語を展開すれば選べる
(イ)の VVVF と CVCF は、略語を展開するだけで判別できます。意味を知らなくても、文字が答えを教えてくれるタイプの空欄です。
| 略語 | 展開 | 意味 | 用途 |
| VVVF | Variable Voltage Variable Frequency | 可変電圧・可変周波数 | 速度制御(インバータ) |
| CVCF | Constant Voltage Constant Frequency | 定電圧・定周波数 | 無停電電源装置(UPS) |
「周波数制御」と書いてある空欄に「定周波数」の装置が入るはずがありません。(イ)=VVVF——Variable(可変)か Constant(一定)かを見るだけです。

空欄を確定する
(ア):(1−s)f/p
回転速度は同期速度から滑りの分だけ引いたものですから、(1−s) が掛かっていなければなりません。「sf/p」では停止時(s=1)に最高速度という矛盾が生じます。(ア)=(1−s)f/pで(1)(3)が消えます。
(ウ):切り換えるのは極数
固定子巻線の接続を変えて切り換えられるのは極数です。(ウ)=極数。「相数」を運転中に切り換える制御法は存在しません——三相の電動機を運転中に単相にする、という話は聞いたことがないはずです。
(エ)(オ):一次電圧と二次抵抗
かご形の二次側には手が出せないのですから、かご形でも使える電圧制御は一次側——(エ)=一次電圧。「二次電圧」を変える方法はありません。
「比例推移を利用して速度を変える」とあるので、(オ)=二次抵抗。比例推移は二次抵抗の専売特許です。



用途から方式を逆に引く
4つの方式を「どんな用途に使われているか」から引けるようにしておくと、応用問題にも対応できます。
| こんな用途なら | 選ばれる方式 | 理由 |
| ポンプ・送風機の省エネ運転 | VVVF | 連続・広範囲・高効率。流量に応じて速度を落とせる |
| 電車・エレベータ | VVVF | 加減速が滑らかで回生制動もできる |
| 換気扇の「強・弱」 | 極数切換 | 2段階で足りるなら安く確実 |
| 小形ファンの風量調整 | 一次電圧制御 | 装置が安い。軽負荷なら損失も小さい |
| クレーン・巻上機の始動 | 二次抵抗制御 | 大きな始動トルクが要る。熱は機外で捨てられる |
VVVF が2つの行を占めているのが現代の実情です。装置が高いという弱点が、半導体の値下がりで解消されたため、いまでは「まずインバータを検討する」のが標準になりました。
インバータで駆動すると、電動機側にも影響が出る
VVVF は万能に見えますが、電動機にとっては「本来と違う電圧」を受け取ることになります。正弦波ではなく、細かく切り刻んだパルスの列だからです。
| 起きること | 原因 | 対策 |
| サージ電圧 | 急峻なパルスが長い配線で反射し、巻線に電源電圧の2倍近くがかかる | インバータ用の絶縁強化電動機/配線を短くする/リアクトル |
| 軸電流(電食) | コモンモード電圧で軸受に電流が流れ、転動面が傷む | 絶縁軸受/シャフトアース |
| 高調波 | 整流器が電源から歪んだ電流を取る | 交流リアクトル/高調波抑制対策 |
| 低速での温度上昇 | 自己冷却ファンの風量が落ちる | 外部ファン/トルクを下げて使う |
「インバータをつなげば終わり」ではないということです。電動機側にも相応の配慮が要る——だから「インバータ駆動対応」と銘打った電動機が売られています。
試験ではここまで問われませんが、「なぜ V/f 一定にするのか」を理解していれば、こうした副作用の理由も自然に見えてきます。パルス波形で電圧を作っている以上、正弦波では起きないことが起きる——パワーエレクトロニクスの分野につながる視点です。
★同一問題:令和元年度 A問題4の再出題
この問題は令和元年度 A問題4と、文面までほぼ同一の再出題です。今回は正解の番号まで一致しました。
| 令和元年度 A問題4 | 令和5年度下期 A問題3(本問) | |
| (ア)(イ) | (1−s)f/p・VVVF | (1−s)f/p・VVVF(同じ) |
| (ウ)(エ)(オ) | 極数・一次電圧・二次抵抗 | 極数・一次電圧・二次抵抗(同じ) |
| 正解の番号 | (5) | (5) |
わずか4年での再出題です。今回は選択肢の並べ替えがなく番号も一致しましたが、これは幸運——同じ問題で番号が動いた例は直流機・誘導機ともに複数あります。
4年という短い間隔で同じ文面が出るということは、速度制御が誘導機の中心的な出題テーマとして定着しているということです。n=120(1−s)f/p という式1本で完答できるのですから、費用対効果は極めて高いと言えます。
⏱️ 本番での進め方
① 略語を展開する:VVVF=可変電圧可変周波数/CVCF=定電圧定周波数(UPS用)。
② n=120(1−s)f/p を書いてから読む。f・p・s が制御法に対応する。
③ 「相数切換」も「二次電圧制御」も存在しない。もっともらしいダミー。
④ 比例推移=二次抵抗。この語が出たら(オ)は決まる。
式の「120」はどこから来たのか
n=120(1−s)f/p の 120 という数字——丸暗記しているだけの人が多いのですが、出どころが分かれば忘れませんし、単位の取り違えも防げます。
1秒間に磁界が電気角360°進む回数。
磁極が1組(N・S)通り過ぎて機械的に1周分。極対数は p/2。
60(秒→分)×2(極対数→極数)=120。
「120=60×2」——60 は秒を分に直す係数、2 は極数を極対数に直す係数です。この2つが掛かっているだけだと分かれば、rad/s で扱うときの ωs=4πf/p も自然に出てきます。
トルク計算では ωs=4πf/p を直接使ったほうが速いことがあります。本問のような穴埋めでは 120f/p、計算問題では 4πf/p——両方を同じものとして扱えるようにしておくと、min−1 と rad/s の往復で迷いません。
💡 覚え方
「n=120(1−s)f/p——f は VVVF、p は極数切換、s は電圧(V²)と二次抵抗(比例推移)」。VVVF は Variable、CVCF は Constant——速度制御に「定周波数」の装置は使えない。存在しない制御法(相数切換・二次電圧制御)がダミーとして混ぜられる。
⚠️ よくある間違い
(ウ)に「相数」を選ぶのが定番の罠です。極数と相数は字面が似ていますが、相数を運転中に切り換える制御は存在しません。もう一つは(エ)に「二次電圧」——かご形の二次側には手が出せないのですから、二次電圧を変える方法はありません。

コメント