電験3種の機械科目において、「誘導電動機の始動法」は頻出かつ非常に重要なテーマです。今回は、平成30年度 機械科目 問4の過去問を用いて、各始動法の特徴や違いをわかりやすく解説していきます。

【問題】平成30年度 機械科目 問4 問題文と選択肢(全文)
まずは、実際の問題文と選択肢を確認してみましょう。

問4
三相誘導電動機の始動においては,十分な始動トルクを確保し,始動電流は抑制し,かつ定常運転時の特性を損なわないように適切な方法を選定することが必要である。次の文章はその選定のために一般に考慮される特徴の幾つかを述べたものである。誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。(1) 全電圧始動法は,直入れ始動法とも呼ばれ,かご形誘導電動機において電動機の出力が電源系統の容量に対して十分小さい場合に用いられる。始動電流は定格電流の数倍程度の値となる。
(2) 二重かご形誘導電動機は,回転子に二重のかご形導体を設けたものであり,始動時には電流が外側導体に偏り始動特性が改善されるので,普通かご形誘導電動機と比較して大きな容量まで全電圧始動法を用いることができる。

(3) Y-Δ始動法は,一次巻線を始動時のみY結線とすることにより始動電流を抑制する方法であり,定格出力が 5~15 kW 程度のかご形誘導電動機に用いられる。始動トルクはΔ結線における始動時の\( \dfrac{1}{\sqrt{3}} \)倍となる。
(4) 始動補償器法は,三相単巻変圧器を用い,使用する変圧器のタップを切り換えることによって低電圧で始動し運転時には全電圧を加える方法であり,定格出力が 15 kW 程度より大きなかご形誘導電動機に用いられる。
(5) 巻線形誘導電動機の始動においては,始動抵抗器を用いて始動時に二次抵抗を大きくすることにより始動電流を抑制しながら始動トルクを増大させる方法がある。これは誘導電動機のトルクの比例推移を利用したものである。
三相誘導電動機の始動法を選ぶ3つの目的

誘導電動機を始動する際、なぜ特別な「始動法」が必要なのでしょうか?その目的は大きく分けて以下の3つです。
- 十分な始動トルクの確保:モーターを回し始めるための強い力が必要です。
- 始動電流の抑制:始動時には定格電流の数倍という非常に大きな電流(突入電流)が流れるため、これを抑える必要があります。
- 定常運転時の特性維持:始動が終わった後の通常運転に悪影響を与えないことが求められます。
(1) 全電圧始動法(直入れ始動法)とは?特徴と適用範囲

全電圧始動法(直入れ始動法)は、電源電圧をそのまま直接モーターに印加する最もシンプルな方法です。特別な始動装置が不要で安価ですが、始動電流が定格電流の5〜8倍と非常に大きくなるため、電源系統の容量に対してモーターの出力が十分小さい場合にのみ用いられます。
したがって、選択肢(1)の記述は正しいです。
(2) 二重かご形誘導電動機の始動特性と仕組み

二重かご形誘導電動機は、回転子の導体を「外側」と「内側」の二重構造にした特殊なモーターです。始動時(すべり\( s \approx 1 \))は回転子周波数が高いため、漏れリアクタンスの影響で電流が抵抗の大きい「外側導体」に偏って流れます(表皮効果)。これにより、始動電流が抑えられ、始動トルクが大きくなります。定常運転時(すべり\( s \approx 0 \))は周波数が低くなり、電流は抵抗の小さい「内側導体」にも流れるため、効率よく運転できます。
このように始動特性が改善されているため、普通のかご形よりも大きな容量まで全電圧始動法を用いることができます。したがって、選択肢(2)の記述は正しいです。
(3) Y-Δ始動法の誤りを徹底解説!始動トルクは1/3倍【正解】

Y-Δ(スターデルタ)始動法は、始動時のみ一次巻線を「Y結線」にし、定常運転時に「Δ結線」に切り替える方法です。Y結線にすると、各相の巻線にかかる電圧(相電圧)は、Δ結線時の\( \dfrac{1}{\sqrt{3}} \)倍になります。誘導電動機のトルクは「電圧の2乗に比例」するため、始動トルクは以下のようになります。
問題文の選択肢(3)では「始動トルクは\( \dfrac{1}{\sqrt{3}} \)倍となる」と記載されていますが、正しくは「\( \dfrac{1}{3} \)倍」です。したがって、選択肢(3)の記述が誤りであり、これが本問の正解(答え:3)となります。
(4) 始動補償器法(三相単巻変圧器)の特徴と適用範囲

始動補償器法は、三相単巻変圧器(オートトランス)を用いて、始動時にモーターに加える電圧を下げる方法です。変圧器のタップを切り替えることで、始動電圧を任意の割合(例えば定格の50%、65%、80%など)に調整できます。Y-Δ始動法では対応できないような、定格出力が15kWを超えるような中〜大容量のかご形誘導電動機に用いられます。
したがって、選択肢(4)の記述は正しいです。
(5) 巻線形誘導電動機の始動と比例推移の原理

巻線形誘導電動機では、回転子(二次側)の回路にスリップリングを介して「始動抵抗器」を接続することができます。二次抵抗\( r_2 \)を大きくすると、最大トルクの大きさ(山の高さ)は変わらずに、最大トルクを発生するすべり\( s \)が大きくなる(グラフが左側にシフトする)という特性があります。これを比例推移と呼びます。始動時(すべり\( s=1 \))に二次抵抗を大きくすることで、始動電流を抑制しつつ、始動トルクを最大トルク付近まで増大させることができます。
したがって、選択肢(5)の記述は正しいです。
まとめ:正解は(3)!各始動法の特徴を一覧で整理

以上の検討から、誤っている記述は(3)となります。
| 始動法 | 対象モーター | 始動電流 | 始動トルク | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 全電圧始動 | 小容量かご形 | 大きい(5〜8倍) | 普通 | 装置不要・安価 |
| Y-Δ始動 | 中容量かご形 | 1/3倍 | 1/3倍 | 始動時のみY結線 |
| 始動補償器 | 大容量かご形 | タップ比の2乗倍 | タップ比の2乗倍 | 単巻変圧器で電圧調整 |
| 二次抵抗制御 | 巻線形 | 抑制される | 増大する | 比例推移を利用 |
誘導電動機の始動法は、それぞれの特徴と「電流・トルクが何倍になるか」をセットで覚えておくことが合格への近道です。特にY-Δ始動法の「始動トルクは\( \dfrac{1}{3} \)倍(\( \dfrac{1}{\sqrt{3}} \)倍ではない!)」は頻出ですので、確実に押さえておきましょう!
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