電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「同期ワット(二次入力)」はトルクと電力の関係を理解しているかを一発で試せる頻出テーマです。本記事では、平成28年度 A問題4「トルクから二次入力を求める」問題を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。
機械出力は「実際の回転速度×トルク」、二次入力は「同期速度×トルク」。使う速度が違うだけです。だから二次入力は「同期ワット」と呼ばれます。機械出力20 kWはダミーに近い検算用データです。
平成28年度 機械科目 A問題4:問題文と選択肢
まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成28年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題4
電験3種 機械科目 【誘導機】 平成28年度 A問題4
定格周波数 50 Hz、6 極のかご形三相誘導電動機があり、トルク 200 N・m、機械出力 20 kW で定格運転している。このときの二次入力(同期ワット)の値 [kW] として、最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
(1) 19 (2) 20 (3) 21 (4) 25 (5) 27
出題のポイント:どの速度を掛けるかで名前が変わる
トルクに速度を掛ければ電力になる——ただし誘導機には速度が2つあるので、掛ける相手で答えの意味が変わります。
| 名前 | 式 | 意味 | 本問での値 |
| 二次入力(同期ワット) | P2=ωsT | 「同期速度で回したつもり」の電力 | 20.9 kW(求める値) |
| 機械出力 | Po=ωT | 実際の速度で出している電力 | 20 kW(与えられている) |
| 二次銅損 | Pc2=P2−Po=sP2 | 「つもり」と「実際」の差 | 0.9 kW |
「同期ワット」という名前は、まさに「同期速度で回したと仮定したときの電力」という意味です。実際にはそこまで回っていないので、差の分だけ二次銅損として熱になっています。

3ステップで解く
6極・50 Hz。極数を極対数と混同しないこと。
min−1 のままでは掛けられない。
最も近いのは21 kW。


与えられた機械出力20 kW は何のためにあるのか
本問は機械出力20 kW を使わずに解けます。では、なぜ与えられているのか——検算のため、そして誤答へ誘うためです。
まず検算に使ってみましょう。二次入力と機械出力が分かれば、滑りも回転速度も逆算できます。
4.3 %——誘導電動機として自然な値。
sP2=0.043×20.9=0.9 ✓
滑り4.3 %、回転速度957 min−1——どちらも誘導電動機として自然な値です。答えが妥当だということが、これで確認できます。
そして誤答への誘い——「20 kW」がそのまま選択肢(2)に置かれているのです。問題文にある数字をそのまま答えてしまうという、意外に多い誤りを狙った配置だと言えます。
選択肢の正体
| 選択肢 | その値の正体 | 判定 |
| (1) 19 | 20 × 0.957(機械出力に (1−s) を掛けた) | 方向が逆 |
| (2) 20 | 与えられた機械出力そのもの | 問題文の数字をそのまま答えた |
| (3) 21 | 104.7 × 200 | 正解 |
| (4) 25 | — | 桁や係数の誤り |
| (5) 27 | 4極として ωs=157 で計算すると31 kWに近い | 極数の読み違い |
方向で絞れます。二次入力は機械出力より必ず大きい(差が二次銅損)のですから、20 kW 以下の(1)(2)は即座に消せます。さらに定格滑りは数 % ですから、20 kW の数 % 増し=21 kW 付近と目星がつきます。
トルクが分かれば、3つの電力が全部出る
この問題の構造をもう一段抽象化すると、「トルクは3つの電力への入口」だということが見えてきます。
| 与えられるもの | 求まるもの | 使う式 |
| トルクと同期速度 | 二次入力 | P2=ωsT |
| 二次入力と滑り | 機械出力・二次銅損 | 黄金比 |
| 二次銅損と滑り | 二次入力・機械出力 | P2=Pc2/s |
| 機械出力と実速度 | トルク | T=Po/ω |
この表のどこから入っても、二次側の全体が埋まります。誘導機の計算問題は、結局この地図の上をどう歩くかという問題——入口と出口を確認してから式を選ぶのが確実です。
⏱️ 本番での進め方
① 同期ワットには同期角速度。実速度を掛けると機械出力になってしまう。
② 二次入力 > 機械出力——20 kW 以下の選択肢は消せる。
③ 定格滑りは数 %なので、20 kW の数 % 増し=21 kW 付近と目星がつく。
④ ω=2πN/60。「1分N回転 → 1秒N/60回転 → 1回転2π」と意味で覚える。
なぜトルクは「同期ワット」で表せるのか
P2=ωsT という関係は、単なる定義ではありません。誘導機の性質から必然的に出てくるもので、比例推移の根拠にもなっています。
「トルクに比例する量」だから、トルクの代わりに使える——これが同期ワットという言い方の値打ちです。N·m の代わりに W で語れるので、電力の計算とトルクの計算を行き来しなくて済みます。
そしてこの式には r2/s が現れています。二次抵抗と滑りが同じ比なら同じトルク——比例推移そのものです。本問の P2=ωsT と、比例推移の r2/s=一定は、同じ式の別の読み方だということになります。
| 同じ式から読めること | 内容 |
| P2=ωsT | 二次入力はトルクに比例(同期ワット) |
| T∝(r2/s)I22 | r2/s が同じなら同じトルク(比例推移) |
| T∝I22/s | 定トルクなら I2∝√s(電圧低下時の電流増加) |
| Pc2=sP2 | 滑りの割合が熱(黄金比) |
誘導機の主要な関係が、すべてこの一本の式から派生していることが分かります。公式を4つ覚えるのではなく、1つの式を4通りに読む——そのほうが確実で、しかも忘れません。
本問は「トルクから二次入力を出す」という、この式の最も素直な使い方です。ここが出発点だと理解しておけば、他の3つの読み方にも自然につながります。
💡 覚え方
「同期ワット=同期速度で回したつもりの電力」P2=ωsT、機械出力は Po=ωT。「つもり」と「実際」の差が二次銅損 sP2。トルクと滑りが分かれば二次側の電力はすべて決まる——入口と出口を確認してから式を選ぶ。
⚠️ よくある間違い
実際の回転速度で計算して20 kW とする(選択肢(2))のが本問の罠です。それは機械出力であって、問われているのは二次入力です。もう一つは極数6を極対数(3)と混同して同期速度を2 000 min−1 とすること——120f/p の p は極数です。

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