誘導機10【電験3種 機械】電圧低下と二次電流(定トルク負荷)とは?平成30年 A問題3 完全解説

電験3種 機械科目 誘導機 平成30年度 A問題3 電圧が下がると電流はどうなる?定トルク負荷

電験3種(第三種電気主任技術者試験)の機械科目において、「電圧変動と二次電流」はトルクの式 \( T \propto I_2^2/s \) を使いこなせるかを試す良問です。本記事では、平成30年度 A問題3「電圧低下時の二次電流の変化」を、はじめての方でも確実に解けるように丁寧に解説します。

「電圧が下がったのに電流が増える」——直感に反するこの現象こそ本問の核心。定トルク負荷では \( I_2^2/s \) が一定になるため、滑りが2倍になれば二次電流は \( \sqrt{2} \) 倍になります。

目次

平成30年度 機械科目 A問題3:問題文と選択肢

まずは、実際の試験問題を確認してみましょう。

電験3種 機械科目 平成30年度 A問題3 問題文(三相かご形誘導電動機の電圧低下と二次電流)
平成30年度 機械科目 A問題3 問題文

出典:一般財団法人 電気技術者試験センター「平成30年度 第三種電気主任技術者試験」機械科目 A問題3

電験3種 機械科目 【誘導機】 平成30年度 A問題3

定格出力 11.0 kW、定格電圧 220 V の三相かご形誘導電動機が定トルク負荷に接続されており、定格電圧かつ定格負荷において滑り 3.0 %で運転されていたが、電源電圧が低下し滑りが 6.0 %で一定となった。滑りが一定となったときの負荷トルクは定格電圧のときと同じであった。このとき、二次電流の値は定格電圧のときの何倍となるか。最も近いものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。ただし、電源周波数は定格値で一定とする。

(1) 0.50  (2) 0.97  (3) 1.03  (4) 1.41  (5) 2.00

出題のポイント:電圧が下がったのに電流は増える

「電源電圧が低下したのに二次電流が増える」——直感に反しますが、定トルク負荷ではこれが起きますその理由を式で押さえるのが本問です。

トルクと二次電流・滑りの関係

\( T=\dfrac{P_2}{\omega_s}=\dfrac{3}{\omega_s}\cdot\dfrac{r_2}{s}I_2^{\,2} \quad\Rightarrow\quad T\propto\dfrac{I_2^{\,2}}{s} \)

周波数一定なら ωs も r2 も定数——残るのは I2²/s だけです。

負荷トルクが同じままなら、I2²/s も同じままだから滑りが増えれば、二次電流も増えなければ辻褄が合いません

定トルク時の二次電流二乗毎滑り一定から滑り2倍で電流1.41倍を求める図
定トルクならI₂∝√sで、滑り2倍に対して二次電流は√2倍です。

2行で答えが出る

\( \dfrac{I_2^{\,2}}{s}=\dfrac{I_2\’^{\,2}}{s\’} \;\Rightarrow\; \dfrac{I_2\’}{I_2}=\sqrt{\dfrac{s\’}{s}} \)
❶ 比の形に変形
定トルク・周波数一定という条件をそのまま式にしただけ。
\( \dfrac{I_2\’}{I_2}=\sqrt{\dfrac{0.060}{0.030}}=\sqrt2=1.41 \)
❷ 代入
滑りが2倍なら電流は√2倍
答え二次電流は定格電圧のときの 1.41倍(4)
電圧低下から回転速度低下滑り増加二次電流増加へ至る因果関係図
定トルク負荷では低電圧でも滑りと電流が増え、過熱につながることがあります。
二次電流二乗毎滑り一定から二次電流倍率1.41を求める3ステップ解説図
√(0.060/0.030)=√2≒1.41より、正解は選択肢(4)です。

選択肢の正体

選択肢そう出る計算どこを間違えたか
(1) 0.500.030/0.060滑り比を逆に取り、しかも平方根を忘れた
(2) 0.97(1−0.060)/(1−0.030)回転速度の比を答えた
(3) 1.03(1−0.030)/(1−0.060)同上(逆比)
(4) 1.41√(0.060/0.030)正解
(5) 2.000.060/0.0302乗を忘れて I2∝s とした

方向で絞ることもできます。電圧が下がってトルクが不足し、減速して滑りが増えた——その滑りの増加が二次起電力 sE2 を増やして電流を回復させ、トルクを取り戻したのですから、電流は増えているはずです。1未満の(1)(2)は即座に消せます

電源電圧は何 % 下がったのか

問題は聞いていませんが、電圧の低下量も求められます。滑りが小さい領域では、トルクは電圧の2乗と滑りの積にほぼ比例します。

低滑り領域のトルク

\( I_2\fallingdotseq\dfrac{sE_2}{r_2}\propto sV \;\Rightarrow\; T\propto\dfrac{I_2^{\,2}}{s}\propto sV^2 \)

s が小さいうちは分母の sx2 が無視でき、二次電流は sV に比例します。

\( sV^2=s\’V\’^2 \;\Rightarrow\; \dfrac{V\’}{V}=\sqrt{\dfrac{s}{s\’}}=\sqrt{\dfrac{0.030}{0.060}} \)
❶ トルク一定の条件
\( \dfrac{V\’}{V}=0.707 \;\Rightarrow\; 220\times0.707\fallingdotseq 156\ \mathrm{V} \)
❷ 低下後の電圧
約29 % もの電圧低下が起きていたことになる。

220 V が156 V まで落ちていた——かなり深刻な電圧低下です。滑りが3 % から6 % へ「たった3ポイント」増えただけに見えて、その裏では電圧が3割も落ちていることになります。

滑りは電圧低下に対して敏感だということです。逆に言えば、電動機の滑り(=回転速度)を監視すれば、電圧の異常を検知できる——実務上も有用な関係です。

低電圧運転がなぜ危ないのか

この問題の結論は、実務では「警告」として読まれます。

定格電圧のとき電圧低下後変化
負荷トルク定格定格(同じ)
滑り3.0 %6.0 %2倍
二次電流定格1.41倍√2倍
二次銅損定格2倍電流の2乗
回転速度0.97Ns0.94Ns3 % 低下
巻線温度定格大幅に上昇焼損の危険

「同じ仕事をしているのに、損失だけが2倍になっている」——これが低電圧運転の正体です。電動機は健気に仕事を続けようとして電流を増やし、その結果として自分を焼いていきます

「低電圧運転はモータが焼ける」という現場の言い伝えは、まさにこの計算で説明できます電圧が下がったら負荷を軽くするか、電圧を回復させる——放っておくのがいちばん危険です。

始動電流が電圧降下を起こすのを嫌う理由も、ここにつながります。ある電動機の始動が、同じ系統の他の電動機を低電圧運転に追い込む——始動方式の選定が「系統のため」である理由が、この問題の裏側に見えてきます。

⏱️ 本番での進め方
T∝I2²/s を書いてから始める。定トルク・周波数一定なら I2∝√s。
滑りが k 倍なら電流は √k 倍。2乗を忘れて(5)2.00 を選ばない。
方向で絞る:電圧低下 → 減速 → 滑り増 → 電流増。1未満は消える。
二次銅損は電流の2乗なので2倍。低電圧運転が危険な理由。

電圧低下と周波数低下はまったく違う

本問は「電源周波数は定格値で一定」と明記しています。この一文がなければ問題が解けない——電圧が下がるのと周波数が下がるのとでは、起きることがまるで違うからです。

電圧だけが下がる(本問)周波数だけが下がるV/f 一定で両方下がる
同期速度変わらない下がる下がる
磁束(∝V/f)減る増える(飽和の危険)変わらない
最大トルク2乗で減るほぼ変わらない〜増えるほぼ変わらない
定トルク負荷での滑り増える変わらない程度変わらない程度
結果電流が増えて過熱励磁電流が激増して過熱正常に減速

どちらも単独で起きれば過熱につながりますが、原因が正反対です。電圧低下では磁束が痩せて二次電流が増え、周波数低下では磁束が太って励磁電流が増えます

インバータが電圧と周波数を必ずセットで動かすのは、この2つの危険をどちらも避けるためです。V/f を一定に保てば磁束が変わらないので、どちらの過熱も起きません——「V/f 一定制御」という名前が、そのまま安全条件になっているわけです。

本問が「周波数は定格値で一定」と断っているのは、ωs を定数として扱ってよいと言っているのと同じです。T=P2s の分母が固定されるからこそ、T∝I2²/s という単純な関係が使える——条件文が解法を指定している典型例です。

💡 覚え方
「T∝I2²/s——定トルクなら I2∝√s」滑りが k 倍になったら電流は √k 倍(周波数一定が前提)。低滑り領域では T∝sV² なので、滑りが2倍=電圧が1/√2=約71 %電流1.41倍なら銅損は2倍で、同じ仕事をしているのに損失だけが倍増するのが低電圧運転の怖さ。

⚠️ よくある間違い
I2∝s と考えて2.00倍(選択肢(5))を選ぶのが最頻の誤りです。トルクの式に入っているのは電流の2乗ですから、電流は滑りの平方根に比例します。もう一つは「電圧が下がったのだから電流も下がるだろう」と1未満を選ぶこと——定トルク負荷では逆です。

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